こんにちは、配当日記です。
保有している3社の株主還元方針を、公式サイトから書き写した3行が手元にあります。
三井住友フィナンシャルグループ(8316)は「累進的配当方針および配当性向40%を維持し」。日本たばこ産業(JT・2914)は「配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)とする」。三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は「配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする」。
3社とも配当性向という言葉は使っています。ただ、三井住友FGだけは「累進的配当」という別の言葉を足していて、三菱UFJは「安定的・持続的な増加」という、似ているようで少し違う書き方をしている。この3つは、並べて比べられるものなのか。比べられるとして、どれがいちばん強い約束なのか。この3行を見比べながら、しばらく答えが出ませんでした。
要件定義の打ち合わせでいちばん時間を食うのは、機能そのものより「原則として」「〜を検討する」といった但し書きの詰めでした。IT企業のエンジニア職に就いていたころの話です。同じ日本語でも、書いた側と読んだ側で想定している範囲が違えば、あとで必ず揉める。いま家計に入ってくるお金は配当だけになったので、会社が配当について書いた文章は、私にとって読み物ではなく来年の生活費の前提です。但し書きを読む癖は、いまもそのまま残っています。
そこで、東京証券取引所が公表している決算短信の作成要領(全66ページ)、「累進配当」を掲げている6社の公式サイト、そして大和総研が公表している株主還元方針の集計レポートを、それぞれ直接開いて読みました。分かったことを先に3つ書きます。
ひとつ。決算短信の様式に「累進配当」と「総還元性向」という欄は存在しません。東証が計算式まで決めて全社に同じ形で書かせているのは、配当性向と純資産配当率(DOE)の2つだけでした。
ふたつ。同じ「累進配当」の4文字でも、会社ごとに設計が違います。掲げている6社を並べると、組み合わせている比率目標は5通りに分かれていました。
三つ。方針は変わります。大和総研は、2025年1月以降に累進配当を撤回、あるいは文言から「累進配当」の表現を削除した企業が10社あると報告しています。
なお本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を勧めるものでもありません。株価・配当利回り・PER・PBRといった日々動く数字にも触れません(第8章で扱う、過去の局面を対象にした指数ベースの分析だけが例外です)。
この記事の内容
- 1. 配当方針は、どこを開けば読めるのか
- 2. 決算短信に「累進配当」という欄はない
- 3. 4つの言葉は、それぞれ何を約束しているのか
- 4. 同じ「累進配当」でも、設計はここまで違う
- 5. 「DOE 3%」の分母は、会社ごとに違う
- 6. 市場全体では、いま何が起きているか
- 7. 方針は変わる。「累進」は永久の約束ではない
- 8. 下落局面で実際に何が起きたか
- 9. 保有3社を、4つの言葉で並べる
- まとめ:方針文を読むときの5つの確認
1. 配当方針は、どこを開けば読めるのか
「配当方針」で検索して最初に困るのは、定義よりも置き場です。会社の配当方針は、大きく4か所に散らばっています。それぞれ載っているものと載っていないものが違うので、先に地図を作っておきます。
| 置き場 | 載っているもの | 載っていないもの |
|---|---|---|
| ①会社の株主還元方針ページ(IRサイト) | 方針の文章そのもの(最新版) | 過去にどう変わったかの履歴 |
| ②有価証券報告書の「配当政策」 | 方針の文章(その事業年度時点のもの) | 年1回しか更新されない |
| ③決算短信(通期)の1ページ目「2.配当の状況」 | 年間配当金・配当金総額・配当性向(連結)・純資産配当率(連結)の実数 | 方針の文章は一切ない |
| ④方針変更の適時開示(「株主還元方針の変更に関するお知らせ」等) | 変更前と変更後の文言、変更理由 | 単発の開示なので、過去分は自分で探す必要がある |
②の有価証券報告書に「配当政策」という項目があることは、大和総研が調査方法として明記しています。2025年9月11日のレポートには、その手順が書かれています。対象はTOPIX500構成企業(2025年8月末時点で497社)。2024年4月1日から2025年3月31日までに決算期末を迎えた事業年度について、有価証券報告書の「配当政策」の項目を調べた、とあります。あとで使う集計値は、すべてこの方法で採られたものです。
四半期の決算短信には、配当性向もDOEも載っていない
ひとつ、つまずきやすい点があります。東証の作成要領には参考様式が並んでいるのですが、通期の決算短信と四半期の決算短信では「2.配当の状況」の欄の数が違います。
通期(第1号参考様式・日本基準・連結)には、年間配当金・配当金総額(合計)・配当性向(連結)・純資産配当率(連結)の欄があります。ところが第2四半期(中間期)の様式にも、第1・第3四半期の様式にも、年間配当金の欄しかありません。配当金総額・配当性向・純資産配当率の欄そのものが用意されていないのです。
「決算短信を見れば配当性向が分かる」は、半分だけ正しい。開くべきは通期の決算短信です。
配当の状況欄は「振り込まれた時期」で並んでいない
もうひとつ。同じ作成要領には、配当の状況欄の並べ方について、こう説明されています。
「決算短信(サマリー情報)」又は「四半期決算短信(サマリー情報)」における「配当の状況」欄においては、投資者の便宜を考慮して、この配当原資による区分ではなく、基準日による区分にしたがって表示することとしていますのでご注意ください。
3月決算の会社なら、X2年3月期の欄に並ぶのは「X1年4月からX2年3月までに基準日が属する配当」です。具体的にはX1年9月末を基準日とする中間配当と、X2年3月末を基準日とする期末配当。実際にお金が振り込まれるのはX1年11月とX2年6月ですから、短信の欄に並んでいる配当と、その期に受け取った配当は別物です。入金ベースの家計簿と決算短信を突き合わせて合わないときは、たいていここが原因でした。
出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.16-17(基準日区分)・p.22(通期様式)・p.37(中間期様式)・p.53(四半期様式)/大和総研 中村昌宏「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.2(いずれも2026年8月15日取得)
2. 決算短信に「累進配当」という欄はない
ここが、この記事でいちばん確かめたかったことです。
東証の作成要領のPDFを開いて、全66ページを機械的に全文検索してみました。結果はこうです。
| 語 | 出現回数 |
|---|---|
| 配当性向 | 4 |
| 純資産配当率 | 2 |
| 累進 | 0 |
| 総還元 | 0 |
| DOE | 0 |
| 株主還元 | 0 |
この計数は、私がPDFを取得して全ページをテキスト化し、自分で数えたものです。東証が公表している数字ではありません。数え方によって前後する可能性はありますが、「累進」「総還元」「DOE」が一度も出てこないことは、ページを繰って目で追っても変わりませんでした。
ここから言えることが3つあります。
ひとつ。東証が計算式まで指定して全社に同じ形式で書かせているのは、配当性向と純資産配当率(DOE)の2つだけです。だからこの2つは、どの会社の短信を開いても同じ定義で並んでいます。
ふたつ。「累進配当」「総還元性向」は様式にありません。書くかどうかも、どう書くかも、会社の自由です。会社が自分の言葉で書いた文章の中にしか存在しない言葉だ、ということになります。
三つ。であれば、同じ「累進配当」という4文字でも、会社ごとに中身が違っていておかしくない。次の章で、それを実際の方針文で確かめます。
出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月(2026年8月15日にPDFを取得し、全66ページを筆者がテキスト化して計数)
3. 4つの言葉は、それぞれ何を約束しているのか
言葉の定義を、一次資料と証券会社の用語集で1つずつ確かめます。ここで大事なのは、どの言葉にも「何を約束しているか」と「何を約束していないか」の両方がある、という点です。
配当性向 ― 割合の約束であって、金額の約束ではない
東証が決算短信の記載ルールとして計算式を指定しています。日本基準では、当該事業年度に基準日が属する普通株式に係る1株当たり個別配当金(合計)を、1株当たり連結当期純利益で割って100を掛ける。IFRS採用会社は分母が「基本的1株当たり当期利益」、米国基準等では「1株当たり当社株主に帰属する当期純利益」になります。いずれの様式にも「分母がマイナスの場合は、『-』を記載してください」という注記が付いています。
約束しているのは、利益に対する配分の割合だけです。配当の金額は約束していません。割合が同じでも、利益が落ちれば配当も落ちます。配当性向の水準そのものをどう読むかは、配当性向は何%なら安全か|東証の集計データで「業種別の目安」を確かめるで東証の全社集計を2年分開いて確かめたので、本記事では深追いしません。
純資産配当率(DOE) ― 会計基準で、欄の名前が3つに分かれる
DOEも東証が計算式を指定しています。ただし、決算短信での欄の名前は会計基準によって3通りです。
| 会計基準 | 決算短信での欄の名前 | 分母 |
|---|---|---|
| 日本基準(第1号様式) | 純資産配当率(連結) | (期首1株当たり連結純資産+期末1株当たり連結純資産)÷2 |
| IFRS(第3号様式) | 親会社所有者帰属持分配当率(連結) | (期首1株当たり親会社所有者帰属持分+期末1株当たり親会社所有者帰属持分)÷2 |
| 米国基準等(第4号様式) | 株主資本配当率(連結) | (期首1株当たり株主資本+期末1株当たり株主資本)÷2 |
分子はいずれも「当該事業年度に基準日が属する普通株式に係る1株当たり個別配当金(合計)」で共通です。そして、「DOE」というアルファベット3文字は、作成要領66ページのどこにも出てきません。短信でDOEを見るときは、この3つの欄名のどれかを探すことになります。保有3社でいえば、三井住友FGと三菱UFJが「純資産配当率(連結)」、IFRSを採用しているJTが「親会社所有者帰属持分配当率(連結)」でした。
DOEが約束しているのは、株主資本に対する割合です。純資産は利益ほど激しく動かないので、利益が落ちても配当が急落しにくい。その代わり、利益が伸びたときの増配ペースは約束していません。この裏表については第6章で改めて扱います。
累進配当 ― 公的な定義がない
まず押さえておきたいのは、累進配当に公的な定義がないことです。前章のとおり、東証の作成要領には「累進」の2文字が一度も出てきません。
世の中に出回っている説明の中では、野村證券の用語解説集が分かりやすいと思います。株主に支払う配当金を毎年増配、または最低でも横ばいの水準で配当し続けること、というものです。大和総研は「1株あたりの配当金の水準を、直近の実績と同水準かそれを上回るとする」と書き、日本経済新聞社は指数の説明で「減配せず、増配か配当維持を続ける」と書いています。証券会社・調査機関・指数会社で言い回しは違いますが、中身は同じです。
約束しているのは、前期の1株配当を下回らないこと。約束していないのは、増配の基準と、その方針がいつまで続くかです。この2つが空白のまま残るところが、あとで効いてきます。
「累進配当を名乗る会社」と「累進配当指数の銘柄」は別の集合
「累進配当」で検索すると、日本経済新聞社が算出している日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)に行き当たります。指数プロフィルによれば、国内に上場する銘柄のうち累進的な配当を続けているものの中から、予想配当利回りの高いものを選ぶ、時価総額ウエート方式の株価指数です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 母集団の条件 | 10年以上連続して累進的な配当を続ける銘柄 |
| 銘柄数 | 30 |
| 銘柄入れ替え | 年1回(6月末) |
| 対象 | 国内証券取引所に上場する銘柄(TOKYO PRO Marketを除く) |
| 公表開始日 | 2023年6月30日(遡及算出開始日2010年6月30日、基準日2010年6月30日=10,000) |
注目したいのは母集団の条件です。「10年以上の実績」であって、「会社が累進配当を名乗っていること」ではありません。つまり、名乗っている会社の集合と、指数に入っている銘柄の集合は、そもそも別物として設計されています。
この「名乗り」と「実績」のずれは、保有3社を調べたときにも出てきました。「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJで、方針の言葉と実際の配当の動きが一致していなかったことを整理しています。
なお、この指数の算出要領PDFは画像ベースで、私の手元ではテキストを読み取れませんでした。「累進的」をどう厳密に判定しているかまでは確認できていないので、ここでは公式サイトの指数プロフィルに書かれている範囲にとどめます。
総還元性向 ― 分子に自社株買いが入る
野村證券の用語解説によれば、配当金と自社株買いの金額を合計し、当期純利益で割って求める指標です。この語も、東証の作成要領には出てきませんでした。会社が説明資料で任意に出している数字です。
約束しているのは、配当と自社株買いを合わせた還元の割合です。約束していないのは、配当の金額。自社株買いに寄せれば、総還元性向が高くても、株主の口座に現金は入ってきません。生活費を配当でまかなっている側からすると、ここは分子の内訳まで見ないと判断できないところです。自社株買いそのものの仕組みと株主にとっての意味は、別の記事で改めて扱います。
出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27-28/野村證券「証券用語解説集|累進配当」「証券用語解説集|総還元性向」/日本経済新聞社「日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)」指数プロフィル/大和総研 中村昌宏「「累進配当」を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.1(いずれも2026年8月15日取得)
4. 同じ「累進配当」でも、設計はここまで違う
公式サイトに「累進配当」を掲げている会社を6社選んで、方針文を原文のまま並べました。要約すると差が消えてしまうので、あえてそのまま書き写しています。
先に断っておくと、このうち私が保有しているのは三井住友FGだけです。ほかの5社は、方針文の書き方の実例として引いているだけで、良い悪い、買う売るといった評価はしません。業績にも触れません。
| 会社 | 方針文(原文の該当部分) | 組み合わせている指標 | 期間の限定 | 自社での用語定義 |
|---|---|---|---|---|
| 住友商事(8053) | 「総還元性向を40%以上として、配当及び柔軟かつ機動的な自己株式取得を実施する」「累進配当*1 により、配当の更なる安定性向上及び利益成長に応じた増配を目指す」 *1 1株当たり年間配当金の前期実績に対して、配当維持または増配を行うもの |
総還元性向40%以上 | 「中期経営計画2026」以降 | あり(脚注で自社定義) |
| 双日(2768) | 「2024年4月にスタートした『中期経営計画2026』では、株主資本DOE4.5%(※1)とする累進的な配当方針としております」 ※1 株主資本:その他の資本の構成要素(為替換算調整勘定、その他評価差額金、繰延ヘッジ損益等)を除外した前期末自己資本/株主資本DOE:支払配当 ÷ 株主資本 |
DOE 4.5% | 「中期経営計画2026」 | あり(DOEの分母を自社定義) |
| マルハニチロ/Umios(1333) | 「中期経営計画『For the ocean, for life 2027』期間(2026年3月期〜2028年3月期)においては、配当性向30%以上を前提とした累進配当を基本方針とし…」 | 配当性向30%以上 | あり(3年間と明示) | なし |
| 三菱ガス化学(4182) | 「自己株式の取得を含めた親会社株主に帰属する当期純利益に対する総還元性向50%を中期的な株主還元の目安とし、財務健全性を損なわない限り減配は避けつつ累進的な配当政策を志向する『累進配当方針』を採用しております。また、DOE(自己資本配当率)についても、配当水準の指標とし、DOE 3.0%を中期的な配当額の目標としております。」 | 総還元性向50%+DOE 3.0% | 中計期間(2025年3月期〜2027年3月期) | なし(ただし「財務健全性を損なわない限り」という条件付き) |
| 三菱商事(8058) | 「2025年度より開始された『経営戦略2027』においても、「累進配当」の方針を継続致します。」 | (このページ上には比率の記載なし) | 経営戦略2027 | なし |
| 三井住友FG(8316) | 「配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります。」 新中期経営計画では「累進的配当方針の進化:「減配しない」から、「毎期増配」へ」 |
配当性向40% | (中計で「進化」と表現) | なし |
並べてみると、読み取れることが4つあります。
組み合わせている比率目標が、5通りに分かれています。総還元性向40%以上、DOE4.5%、配当性向30%以上、総還元性向50%とDOE3.0%の併用、配当性向40%。「累進配当」の4文字だけを見れば6社とも同じに見えるのに、その隣に置かれている数字は全部違います。
期間の扱いも違います。マルハニチロは「2026年3月期〜2028年3月期においては」と3年を明示しています。三菱商事は新しい経営戦略が始まるタイミングで「継続致します」とわざわざ表明している。逆に言えば、表明し直す必要があるということは、放っておいても続くとは限らないのです。
住友商事と双日は、自社で用語の意味を脚注に書いています。住友商事は「1株当たり年間配当金の前期実績に対して、配当維持または増配を行うもの」と累進配当そのものの意味を、双日はDOEの分母を、それぞれ自分で書いている。裏を返せば、脚注のない会社では、読む側が言葉から意味を推測するしかありません。
三菱ガス化学の「財務健全性を損なわない限り」は、累進配当に条件が付いている実例です。この一節があるかないかで、方針文の意味はかなり変わります。
大事なのは、「累進配当と書いてあるかどうか」ではなく、「その1文の前後に何が書いてあるか」のほうです。方針文は長くても数行です。要約せずに全部読む。それだけで十分に実用的な作業になります。
なお、累進配当を掲げている会社はこの6社に限りません。設計の違いを見るために選んだ例なので、「日本企業はこうなっている」と一般化できるものではありません。
出典(いずれも2026年8月15日に各社公式サイトから取得):住友商事「株主還元情報」/双日「配当・株主還元」/マルハニチロ(Umios)「配当金・配当政策・株主優待」/三菱ガス化学「株主還元・配当」/三菱商事「株主還元情報」/三井住友フィナンシャルグループ「株主還元方針・配当情報」および2025年度決算投資家説明会資料 2026年5月18日, p.54-55
5. 「DOE 3%」の分母は、会社ごとに違う
前章で双日の脚注に「前期末自己資本」という言葉が出てきました。ここに、もうひとつ確かめておきたい落とし穴があります。
第3章のとおり、東証は決算短信のDOEの計算式を指定しています。ところが、会社が方針として掲げるDOEは、その式と違う分母を使っていることがあります。4つ並べます。
| 出どころ | 分子 | 分母 |
|---|---|---|
| 東証・決算短信(日本基準) | 1株当たり個別配当金(合計) | (期首1株当たり連結純資産+期末1株当たり連結純資産)÷2 |
| 三井住友FG・決算短信の注記 | 普通株式配当金総額 | (期首自己資本+期末自己資本)÷2 |
| 双日・方針 | 支払配当 | 前期末自己資本(為替換算調整勘定、その他評価差額金、繰延ヘッジ損益等を除外) |
| 大同特殊鋼・方針 | 支払配当 | (前期末の)株主資本(その他の資本の構成要素を除外した親会社所有者帰属持分) |
違いは2点です。ひとつは期首と期末の平均をとるか、前期末の一時点だけを使うか。もうひとつはその他の資本の構成要素(為替換算調整勘定など)を分母に含めるか、除くか。
これは、会社が数字をよく見せようとしているという話ではありません。為替や評価差額のように事業の実力と直接つながらない変動を配当の基準から外しておきたい、というのは経営判断として説明のつくものです。私がここで書きたいのは是非ではなく、「DOE」という同じ3文字に、複数の計算が同居しているという事実だけです。
実務的な結論は単純です。会社の方針ページで、DOEの横に付いている※印の注記を必ず読む。注記がなければ、決算短信の純資産配当率の欄と会社の目標値を直接比べないほうが安全です。同じ「3%」でも、違う式で出した3%かもしれないからです。
出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27/三井住友フィナンシャルグループ「2026年3月期 決算短信」2026年5月15日, p.1注記/双日「配当・株主還元」/大同特殊鋼「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」2025年10月30日, p.1
6. 市場全体では、いま何が起きているか
ここまでは言葉の話でした。次に、その言葉を掲げる会社が増えているのか減っているのかを、大和総研の集計で確かめます。以下の数値はすべて、大和総研が公表しているレポートによるものです。東証や金融庁の見解ではなく、民間の調査機関が独自に集計・分析したものだという前提で読んでください。
出発点は、2023年3月末の東証の要請
大和総研は一連のレポートで、株主還元方針の見直しが増えた背景をこう整理しています。2023年3月末に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、それ以降、上場企業の間で株主還元方針を変更する動きが活発になった、と。2025年9月11日のレポートでは、それ以前の転機としてコーポレートガバナンス・コードの適用開始(2015年)、東証による市場区分の見直し(2022年4月)、アクティビストの存在感の高まりも挙げられています。
なお、この要請そのものの通知文書は、私はまだ取得できていません。ここでは大和総研が要約している内容を紹介するにとどめ、要請の中身には踏み込みません。文書の所在は日本取引所グループのサイトにあります。
主要企業の3社に2社が、比率目標を掲げている
TOPIX500構成企業の有価証券報告書「配当政策」を集計した結果です。ここでの「2024年度」は、2024年4月1日から2025年3月31日までに決算期末を迎えた事業年度を指します。
| 年度 | 集計対象 | 比率目標あり | 採用率 |
|---|---|---|---|
| 2014年度 | 476社 | 186社 | 39.1% |
| 2022年度 | 495社 | 286社 | 57.8% |
| 2023年度 | 496社 | 299社 | 60.3% |
| 2024年度 | 497社 | 320社 | 64.4% |
10年で39.1%から64.4%へ。さらに、比率目標を掲げていない177社のうち15社が、翌事業年度から採用すると記しています。撤回がないと仮定すれば67.4%、つまり3社に2社になる、と大和総研は書いています。
では、その目標値はどのくらいの水準に置かれているのか。
| 指標 | 最頻値 | 平均値 | 前年度比(平均値) |
|---|---|---|---|
| 配当性向 | 30% | 37.0% | +1.0pt |
| 総還元性向 | 50% | 49.2% | +0.9pt |
| DOE | 3% | 3.6% | +0.3pt |
ここは注意が必要です。この表は「会社が自分で掲げた目標値」の分布です。実際にその年いくらだったかという実績値ではありません。実績値のほうは東証が全社集計を公表していて、そちらは配当性向は何%なら安全か|東証の集計データで「業種別の目安」を確かめるで2年分を開いています。目標値と実績値は別の軸なので、混ぜて読むと話が合わなくなります。
直近は「新設」より「引き上げ・変更」のフェーズ
次は適時開示ベースの集計です。株主還元方針に関する開示が、半年ごとに何件出て、その中身がどうだったか。
| 2025年1-6月 | 2025年7-12月 | 2026年1-6月 | |
|---|---|---|---|
| 開示件数 | 266件 | 101件 | 239件 |
| うち増配を伴う開示 | 198件(74%) | 63件(62%) | 180件(75%) |
| 比率目標の新設 | 61件(23%) | 18件(18%) | 31件(13%) |
| 比率目標値の引き上げ | 96件(36%) | 32件(32%) | 101件(42%) |
| 方針の追加または変更 | 102件(38%) | 35件(35%) | 116件(49%) |
新設の比率が23%から13%へ下がる一方、引き上げが36%から42%、追加・変更が38%から49%へ上がっています。ひととおり掲げ終えて、中身を調整する段階に入っているように見えます。ちなみに2025年通年の開示件数は364件で、大和総研によれば2009年以降で最多でした(2026年8月3日のレポートが示す上半期266件・下半期101件を単純合計した367件とは一致しません。集計元のレポートが異なります)。
では、2026年上半期に新設・追加された方針は、どの指標だったのか。ここが本題です。
| 方針 | 新設・追加(他方針からの変更を含む) | 撤回(他方針への変更を含む) |
|---|---|---|
| DOE | 58 | 2 |
| 累進配当 | 48 | 5 |
| 配当性向 | 39 | 32 |
| 総還元性向 | 15 | 13 |
| 配当金の下限 | 13 | 12 |
DOEと累進配当は、新設が撤回を大きく上回っています。一方で配当性向は撤回32件が新設39件に迫っており、総還元性向や配当金の下限も新設と撤回の件数差が小さくなっています。いま起きているのは、業績に連動する配当性向を手放して、業績に連動しにくいDOEや累進配当に切り替える流れだと読めます。
「下がりにくい」の裏側にあるもの
ここが、この章でいちばん書きたかったところです。大和総研は2026年8月3日のレポートで、こう指摘しています。
DOE や累進配当は、当期純利益を基準とする配当性向や総還元性向に比べ、業績が悪化しても減配する可能性が相対的に小さいというメリットがある。このことは、言い換えると業績が大きく伸びた際には、配当性向や総還元性向を採用した場合ほど、株主還元額が増えないことを意味する。
下振れを止める仕組みは、同時に上振れも止めます。当たり前といえば当たり前なのですが、「累進配当だから安心」という読み方をしていた頃の私は、この裏側をまったく見ていませんでした。
同レポートはもう一点、気になることを書いています。DOEを新設・追加したケースのうち約4割の企業は、配当性向や総還元性向といった業績連動型の方針を採用していない。そして直近1年間(2025年下半期から2026年上半期)については、その業績連動型を採用していない企業の8割が、ひとつの型に当てはまるといいます。それまで採用していた配当性向または総還元性向を撤回して、DOEに変更したケースです(「約4割」「8割」は同レポートの表現です)。さらに、こんな指摘もあります。
大和総研は「DOEの目標値を決めた経緯が、今後の平均的な利益水準の見通しを含めて開示資料の中で説明されているケースは確認できていない」とも指摘しています。
目標として置かれた3%なり4.5%なりが、その会社の中長期の利益水準に対して妥当なのかどうかが、外からは見えにくいということです。
いっぽう、2025年9月11日のレポートでは、組み合わせる形が多いことと、その利点も指摘されています。新しくDOEや累進配当を採用するというより、業績連動性の高い配当性向や総還元性向をすでに採用している企業が、そこに追加する例が多い。組み合わせておけば、業績が拡大したときの配当の上振れと、悪化したときの減配リスクの限定と、その両面に対応できる、という整理です。
つまり、方針文を読むときに見るべきは、「下振れを止める方針」と「上振れを取りにいく方針」を会社が両方持っているかどうか。第4章の6社比較表は、その組み合わせの実例が並んだ表でもありました。住友商事は累進配当と総還元性向40%以上、三菱ガス化学は累進配当と総還元性向50%とDOE3.0%、三井住友FGは累進的配当方針と配当性向40%。逆に、三菱商事の株主還元情報のページには、累進配当の方針は書かれていても比率目標の記載はありませんでした。
出典:大和総研 中村昌宏「安定配当型の方針が増えた2026年上半期の株主還元方針」2026年8月3日, p.2・p.3(図表3)・p.4(図表4)・p.6/同「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.1-3(図表1・図表2)/同「増加してきた株主還元方針の見直しに一服感」2026年1月30日/日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(2026年8月15日取得)
7. 方針は変わる。「累進」は永久の約束ではない
「累進配当」という言葉から、私は長いあいだ「ずっと減配しない」という意味を受け取っていました。ここを確かめます。
撤回した企業が、実際にある
大和総研は2026年6月16日のレポートで、累進配当の課題としてこう書いています。
配当方針自体が変更される場合があり、「予想していなかった減配」に投資家が直面する可能性があることである。(中略)実際、2025年1月以降で、累進配当を撤回、あるいは方針の文言から「累進配当」の表現を削除した企業は10社ある。
10社の社名は公表されていないので、ここでは件数だけを事実として受け取ります。
同レポートは、すでに一部の企業が期間や条件を明示していることも報告しています。現在の中期経営計画が進行している間は減配しない、「原則として」という条件を付ける、特別配当を除いた普通配当だけを累進配当とする。こうした書き分けが現れている、という指摘です。そのうえで、「累進」という言葉から投資家やメディアが想起する時間軸と、経営陣が考える時間軸が一致しない確率が相応にあるのなら、他の文言に変えたり意図を伝えやすい文言を追加したりする工夫が必要だろう、と結んでいます。
ここで第4章に戻ると、話がきれいにつながります。マルハニチロが「2026年3月期〜2028年3月期においては」と3年を区切っているのも、三菱ガス化学が「財務健全性を損なわない限り」と条件を付けているのも、三菱商事が新しい経営戦略の開始時に「継続致します」と表明し直しているのも、この「期間を区切る、条件を付ける」の実例そのものです。大和総研の一般論と、実在の方針文が正確に噛み合っています。
方針変更の開示は、変更前と変更後が並べて書いてある
では、方針が変わったとき、読者は何を見ればいいのか。適時開示の実物を1つ見ておきます。大同特殊鋼(5471)が2025年10月30日に出した「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」です。この会社も保有していません。開示文書の読み方の例として引きます。
<従来>
・安定した利益還元を基本とし、連結配当性向30%以上を目安とする。
・キャッシュ・アロケーションの進捗を踏まえ、株主還元強化を検討する。<変更後>
・財務の健全性を維持することを基本とし、連結配当性向30%以上を目安とする。
ただし、下限指標をDOE(株主資本配当率)2.5%(※)とする。
・キャッシュ・アロケーションの進捗を踏まえながら、自己株式取得についても検討する。※株主資本:その他の資本の構成要素を除外した親会社所有者帰属持分/DOE:支払配当÷(前期末の)株主資本
この形式のありがたいところは、差分だけを読めば済むことです。この開示の場合、「連結配当性向30%以上」はそのまま残り、そこに「DOE 2.5%の下限」が足されました。つまり上限を上げたのではなく、下限を作った変更です。第6章で見た「配当性向を手放してDOEへ」という流れの中では、組み合わせ型の実例にあたります。※印の注記に分母の定義が書かれているのも、第5章で確かめたとおりです。
会社が挙げている変更理由は、株主還元の充実と資本効率の向上を図ることを目的として下限DOEを導入し、安定的な配当を実現するというもの。適用は2026年3月期からとされています。
この開示では、配当予想も同時に修正されています。
| 中間 | 期末 | 年間 | |
|---|---|---|---|
| 前期実績(2025年3月期) | 21円 | 26円 | 47円 |
| 直近予想(2025年5月8日公表) | 16円 | 未定 | 未定 |
| 今回(2025年10月30日) | 22円(決定) | 27円 | 49円 |
ここは読み方に注意が必要です。中間配当は16円から22円へ6円増えていますが、これは5月時点の予想からの修正であって、前期実績21円と比べれば1円の差です。「6円の増配」と書いてある記事を見かけたら、どの数字とどの数字を比べているのかを確かめたほうがいい。私が引っかかりやすいのは、いつもこの手の比較の基準点でした。
配当を減らしにくい会社をどう見分けるかについては、【保存版】減配しない高配当株の見抜き方|累進配当銘柄を"構造"で選ぶ、実例と分析の完全ガイドにもまとめています。ただし本章で見たとおり、方針そのものが変わりうる以上、一度確認して終わりにはできません。
出典:大和総研 中村昌宏「『累進配当』を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.5/大同特殊鋼「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」2025年10月30日, p.1(2026年8月15日取得)
8. 下落局面で実際に何が起きたか
この記事では株価に触れないと最初に書きました。ここだけは例外にします。個別銘柄の株価ではなく、過去に終わった3つの下落局面を対象にした指数ベースの分析だからです。
大和総研は2026年6月16日公表のレポートで、累進配当を採用している企業の株価が、下落局面でTOPIXを上回ったことを報告しています。
| 下落局面 | 日経平均 | TOPIX | 底打ち時の対TOPIX相対株価(中央値) | TOPIXを上回った企業の割合 |
|---|---|---|---|---|
| ①2024/7/11→2024/8/5 | ▲25.5% | ▲24.0% | 106.6% | 8割強 |
| ②2025/3/26→2025/4/7 | ▲18.1% | ▲18.6% | 103.6% | 7割強 |
| ③2026/2/27→2026/3/31 | ▲13.2% | ▲11.2% | 102.6% | 6割強 |
対象企業数は①104社、②149社、③221社。TOPIX500構成企業の有価証券報告書「配当政策」の記載、または2022年1月以降の適時開示資料をもとに大和総研が調査したものです。
ここは、書かれていないことのほうが大事だと思います。3点あります。
これは中央値であって、全社ではありません。③の局面で言えば、TOPIXを上回ったのは6割強。裏返せば4割近くは上回っていません。しかも局面が新しくなるほど、上回った企業の割合(8割強→7割強→6割強)も相対株価の中央値(106.6%→103.6%→102.6%)も下がっています。
下がった局面の話です。同レポートは、株価が反転すると相対株価の中央値は下落する、と書いています。さらに、2023年末から2026年5月末にかけて日経平均は2.0倍、TOPIXは1.7倍と大幅に上昇しており、累進配当を採用した効果は表れにくい期間だった、とも指摘しています。上がる場面では効きにくい、という但し書きが本文に付いているわけです。
そして、これは過去に起きたことの記録であって、次の局面で同じことが起きる保証はどこにもありません。私はこの表を「だから累進配当を掲げている会社を買えばいい」という意味では読んでいません。第6章で見た「下がりにくい代わりに上がりにくい」という性質が、株価の面でも同じ形で観測されている、という確認として読んでいます。下がりにくさを買うということは、上がりにくさも一緒に引き受けるということです。
出典:大和総研 中村昌宏「『累進配当』を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.2-4(図表1〜3)
9. 保有3社を、4つの言葉で並べる
冒頭で手が止まった3社に戻ります。ここまで見てきた4つの言葉を軸に並べ直すと、何が見えるか。
まず方針文のほうです。この3社の公式ページは2026年8月15日に再度取得しましたが、3日前に確認した内容と一字一句変わっていませんでした。
| 銘柄 | 方針文(原文) | 4つの言葉のうち使っているもの |
|---|---|---|
| JT(2914) | 「資本市場における競争力のある水準として配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)とする」「自己株式の取得は、当該年度における財務状況及び中期的な資金需要等を踏まえて実施の是非を検討」 | 配当性向のみ |
| 三井住友FG(8316) | 「配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります」 | 累進配当+配当性向 |
| 三菱UFJ(8306) | 「配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする」 | 配当性向のみ(「安定的・持続的な増加」は累進配当という語ではない) |
三菱UFJの「安定的・持続的な増加」を累進配当と呼びたくなるところですが、会社はその語を使っていません。第3章で見たとおり累進配当には公的な定義がなく、会社が自分の言葉で書くしかない領域です。だからこそ、書いていない言葉を読む側が補うのは危ないと考えて、私はここを分けて扱っています。
次に実数です。
| JT(2914) 2025年12月期 |
三井住友FG(8316) 2026年3月期 |
三菱UFJ(8306) 2026年3月期 |
|
|---|---|---|---|
| 会計基準 | IFRS | 日本基準 | 日本基準 |
| 方針上の配当性向 | 75%目安(±5%) | 40%を維持 | 40%程度 |
| 配当性向 実績 | 85.0%(調整後ベース) 81.4%(報告ベース) |
38.0% | 40.3% |
| DOEの欄の名前 | 親会社所有者帰属持分配当率(連結) | 純資産配当率(連結) | 純資産配当率(連結) |
| DOE 実績 | 10.6% | 3.9% | 4.6% |
| 総還元性向 | (会社は公表していない) | 54% | 60.8% |
| 「累進配当」の表記 | なし | あり | なし |
この表から、3つ書いておきます。
JTのDOE 10.6%は、目標値の統計と並べてはいけない数字です。第6章で見た主要企業のDOE目標値は最頻値3%、平均3.6%でした。10.6%はそれを大きく上回っています。ただしJTは「DOE◯%を目標とする」と一切公表していません。これは配当性向75%目安に沿って配当額を決めた結果、あとから計算されて出てくる実績値であって、会社が置いた目標ではない。目標値の分布と並べて高い低いを論じることはできません。DOEという欄には、目標として置かれた数字と、結果として出てきた数字の2種類が混在しているということです。
方針値との距離は、3社で違います。三菱UFJは40%程度の方針に対して40.3%でほぼ一致。三井住友FGは40%維持に対して38.0%とやや下回る。JTは75%±5%、つまり上限80%に対して調整後ベースで85.0%です。累進配当を掲げている三井住友FGが、直近では比率目標を下回っているというねじれについては、「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJで3社の増配実績と併せて追いました。
三井住友FGの「累進的配当方針+配当性向40%」は、第6章で大和総研が指摘していた組み合わせ型に当てはまります。下振れを止める方針と、業績に連動する方針を両方持っている形です。これは方針の設計がその型に該当するという事実の確認であって、だからこの会社が優れている、という話ではありません。実績のほうは上に書いたとおり方針値を下回っています。
もうひとつ、業種の傾向も見ておきます。大和総研が2025年9月11日のレポートで出している業種別の採用率(TOPIX500の主要企業の有価証券報告書ベース)では、累進配当の採用率が高いのは卸売業32%、銀行業25%、食料品19%。DOEは機械34%、化学29%、輸送用機器26%でした。銀行業の三井住友FGが累進配当を掲げ、食料品のJTが掲げていないのは、業種ごとの傾向で見れば特別に珍しい話ではありません。
なお大和総研は、別の母集団(東証プライム・スタンダードの各業種に対する新設・追加企業数の比率)でも業種別の数字を出しています。定義が違うので、ここでは前者だけを使いました。
3社それぞれの中身は個別の記事に分けています。【三井住友FG(8316)】6期連続増配、でも「累進配当」で合ってる?、【JT(2914)】配当272円へ増配。JTって減配したこと、ないんでしたっけ?、【三菱UFJ(8306)】保有株主として確認しておきたい配当と資本の状況の3本です。
出典:JT「株主還元方針・配当」/三井住友フィナンシャルグループ「株主還元方針・配当情報」/三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主還元方針」(いずれも2026年8月15日取得)/各社の2025年12月期・2026年3月期 決算短信および決算説明資料/大和総研「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.1
まとめ:方針文を読むときの5つの確認
一次資料を開いて分かったのは、探していた「どの方針がいちばん安心か」という順位が、そもそも存在しないということでした。あるのは、それぞれが何を約束して、何を約束していないかという対応関係だけです。
| 言葉 | 約束していること | 約束していないこと |
|---|---|---|
| 配当性向 | 利益に対する配分の割合 | 配当の金額。利益が落ちれば配当も落ちる |
| 総還元性向 | 配当+自社株買いの合計の割合 | 配当の金額。自社株買いに寄れば配当は増えない |
| DOE(純資産配当率) | 株主資本に対する割合。利益が落ちても配当が急落しにくい | 利益が伸びたときの増配ペース |
| 累進配当 | 前期の1株配当を下回らないこと | 増配の基準と、その方針がいつまで続くか |
そのうえで、私が方針文を読むときに実際にやっている確認を5つ、チェックリストの形にしておきます。
| 方針文にこう書いてあったら | 確認すること |
|---|---|
| 「配当性向◯%」 | 分母の利益が調整後か報告ベースか。JTのように2種類ある会社がある |
| 「DOE ◯%」 | ※印の注記で分母の定義を確認する。期首期末の平均か前期末の一時点か。その他の資本の構成要素を除いているか |
| 「累進配当」 | ①どの期間についてか(中期経営計画の間か、期間の記載がないか) ②条件が付いていないか(「原則として」「財務健全性を損なわない限り」「特別配当を除く」) ③増配の基準が別に書いてあるか |
| 「総還元性向◯%」 | 分子のうち配当と自社株買いの内訳。自社株買いに寄れば手元に現金は入らない |
| 「安定配当」 | 大和総研が「配当金の水準を維持することなのか、それとも減配してでも配当を継続することなのかと解釈に幅があり、分かりやすい表現ではなかった」と書いている表現。比率目標が併記されているかを見る |
結局のところ、この記事でやったことは、会社が書いた数行の文章を要約せずに読む、それだけです。決算短信を開けば、配当性向と純資産配当率の2つは、どの会社でも同じ定義で並んでいます。それ以外の言葉は、会社が自分で書いた文章の中にしかありません。だから「累進配当と書いてあるから安心」ではなく、その1文がどの資料のどこに、どういう条件付きで置かれているかを見る。
DOEそのものの読み方と採用企業の傾向、そして自社株買いが株主にとって何を意味するのかは、それぞれ別の記事で改めて掘るつもりです。
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【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の株主還元方針・配当性向・DOE・総還元性向に関する情報は、執筆時点(2026年8月15日)に東京証券取引所、各社および調査機関が公表している資料にもとづく整理です。文中で紹介した集計・分析のうち、開示件数・採用率・目標値の分布・下落局面の株価に関するものは、いずれも大和総研が公表しているレポートによるものであり、東京証券取引所や公的機関の見解ではありません。決算短信作成要領の語の出現回数は、筆者がPDFを取得して数えたもので、東京証券取引所が公表している数値ではありません。本記事で言及した住友商事・双日・マルハニチロ(Umios)・三菱ガス化学・三菱商事・大同特殊鋼は筆者の保有銘柄ではなく、方針文および開示文書の書き方の実例として引用したものです。配当方針および配当予想は将来の実現を保証するものではなく、変更される可能性があります。最終的な判断は、必ず各社の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。