配当日記。

37歳で会社を辞め、いまは配当金だけで暮らす40代DINKsの記録。配当・高配当株とFIRE後の暮らしを書いています。

配当方針の読み方|「累進配当」「DOE」「配当性向」「総還元性向」が約束していないこと

こんにちは、配当日記です。

保有している3社の株主還元方針を、公式サイトから書き写した3行が手元にあります。

三井住友フィナンシャルグループ(8316)は「累進的配当方針および配当性向40%を維持し」。日本たばこ産業(JT・2914)は「配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)とする」。三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)は「配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする」。

3社とも配当性向という言葉は使っています。ただ、三井住友FGだけは「累進的配当」という別の言葉を足していて、三菱UFJは「安定的・持続的な増加」という、似ているようで少し違う書き方をしている。この3つは、並べて比べられるものなのか。比べられるとして、どれがいちばん強い約束なのか。この3行を見比べながら、しばらく答えが出ませんでした。

要件定義の打ち合わせでいちばん時間を食うのは、機能そのものより「原則として」「〜を検討する」といった但し書きの詰めでした。IT企業のエンジニア職に就いていたころの話です。同じ日本語でも、書いた側と読んだ側で想定している範囲が違えば、あとで必ず揉める。いま家計に入ってくるお金は配当だけになったので、会社が配当について書いた文章は、私にとって読み物ではなく来年の生活費の前提です。但し書きを読む癖は、いまもそのまま残っています。

そこで、東京証券取引所が公表している決算短信の作成要領(全66ページ)、「累進配当」を掲げている6社の公式サイト、そして大和総研が公表している株主還元方針の集計レポートを、それぞれ直接開いて読みました。分かったことを先に3つ書きます。

ひとつ。決算短信の様式に「累進配当」と「総還元性向」という欄は存在しません。東証が計算式まで決めて全社に同じ形で書かせているのは、配当性向と純資産配当率(DOE)の2つだけでした。

ふたつ。同じ「累進配当」の4文字でも、会社ごとに設計が違います。掲げている6社を並べると、組み合わせている比率目標は5通りに分かれていました。

三つ。方針は変わります。大和総研は、2025年1月以降に累進配当を撤回、あるいは文言から「累進配当」の表現を削除した企業が10社あると報告しています。

なお本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を勧めるものでもありません。株価・配当利回り・PER・PBRといった日々動く数字にも触れません(第8章で扱う、過去の局面を対象にした指数ベースの分析だけが例外です)。

この記事の内容

1. 配当方針は、どこを開けば読めるのか

「配当方針」で検索して最初に困るのは、定義よりも置き場です。会社の配当方針は、大きく4か所に散らばっています。それぞれ載っているものと載っていないものが違うので、先に地図を作っておきます。

置き場 載っているもの 載っていないもの
①会社の株主還元方針ページ(IRサイト) 方針の文章そのもの(最新版) 過去にどう変わったかの履歴
②有価証券報告書の「配当政策」 方針の文章(その事業年度時点のもの) 年1回しか更新されない
③決算短信(通期)の1ページ目「2.配当の状況」 年間配当金・配当金総額・配当性向(連結)純資産配当率(連結)の実数 方針の文章は一切ない
④方針変更の適時開示(「株主還元方針の変更に関するお知らせ」等) 変更前と変更後の文言、変更理由 単発の開示なので、過去分は自分で探す必要がある

②の有価証券報告書に「配当政策」という項目があることは、大和総研が調査方法として明記しています。2025年9月11日のレポートには、その手順が書かれています。対象はTOPIX500構成企業(2025年8月末時点で497社)。2024年4月1日から2025年3月31日までに決算期末を迎えた事業年度について、有価証券報告書の「配当政策」の項目を調べた、とあります。あとで使う集計値は、すべてこの方法で採られたものです。

四半期の決算短信には、配当性向もDOEも載っていない

ひとつ、つまずきやすい点があります。東証の作成要領には参考様式が並んでいるのですが、通期の決算短信と四半期の決算短信では「2.配当の状況」の欄の数が違います。

通期(第1号参考様式・日本基準・連結)には、年間配当金・配当金総額(合計)・配当性向(連結)・純資産配当率(連結)の欄があります。ところが第2四半期(中間期)の様式にも、第1・第3四半期の様式にも、年間配当金の欄しかありません。配当金総額・配当性向・純資産配当率の欄そのものが用意されていないのです。

「決算短信を見れば配当性向が分かる」は、半分だけ正しい。開くべきは通期の決算短信です。

配当の状況欄は「振り込まれた時期」で並んでいない

もうひとつ。同じ作成要領には、配当の状況欄の並べ方について、こう説明されています。

「決算短信(サマリー情報)」又は「四半期決算短信(サマリー情報)」における「配当の状況」欄においては、投資者の便宜を考慮して、この配当原資による区分ではなく、基準日による区分にしたがって表示することとしていますのでご注意ください。

3月決算の会社なら、X2年3月期の欄に並ぶのは「X1年4月からX2年3月までに基準日が属する配当」です。具体的にはX1年9月末を基準日とする中間配当と、X2年3月末を基準日とする期末配当。実際にお金が振り込まれるのはX1年11月とX2年6月ですから、短信の欄に並んでいる配当と、その期に受け取った配当は別物です。入金ベースの家計簿と決算短信を突き合わせて合わないときは、たいていここが原因でした。

出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.16-17(基準日区分)・p.22(通期様式)・p.37(中間期様式)・p.53(四半期様式)/大和総研 中村昌宏「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.2(いずれも2026年8月15日取得)

2. 決算短信に「累進配当」という欄はない

ここが、この記事でいちばん確かめたかったことです。

東証の作成要領のPDFを開いて、全66ページを機械的に全文検索してみました。結果はこうです。

出現回数
配当性向 4
純資産配当率 2
累進 0
総還元 0
DOE 0
株主還元 0

この計数は、私がPDFを取得して全ページをテキスト化し、自分で数えたものです。東証が公表している数字ではありません。数え方によって前後する可能性はありますが、「累進」「総還元」「DOE」が一度も出てこないことは、ページを繰って目で追っても変わりませんでした。

ここから言えることが3つあります。

ひとつ。東証が計算式まで指定して全社に同じ形式で書かせているのは、配当性向と純資産配当率(DOE)の2つだけです。だからこの2つは、どの会社の短信を開いても同じ定義で並んでいます。

ふたつ。「累進配当」「総還元性向」は様式にありません。書くかどうかも、どう書くかも、会社の自由です。会社が自分の言葉で書いた文章の中にしか存在しない言葉だ、ということになります。

三つ。であれば、同じ「累進配当」という4文字でも、会社ごとに中身が違っていておかしくない。次の章で、それを実際の方針文で確かめます。

出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月(2026年8月15日にPDFを取得し、全66ページを筆者がテキスト化して計数)

3. 4つの言葉は、それぞれ何を約束しているのか

言葉の定義を、一次資料と証券会社の用語集で1つずつ確かめます。ここで大事なのは、どの言葉にも「何を約束しているか」と「何を約束していないか」の両方がある、という点です。

配当性向 ― 割合の約束であって、金額の約束ではない

東証が決算短信の記載ルールとして計算式を指定しています。日本基準では、当該事業年度に基準日が属する普通株式に係る1株当たり個別配当金(合計)を、1株当たり連結当期純利益で割って100を掛ける。IFRS採用会社は分母が「基本的1株当たり当期利益」、米国基準等では「1株当たり当社株主に帰属する当期純利益」になります。いずれの様式にも「分母がマイナスの場合は、『-』を記載してください」という注記が付いています。

約束しているのは、利益に対する配分の割合だけです。配当の金額は約束していません。割合が同じでも、利益が落ちれば配当も落ちます。配当性向の水準そのものをどう読むかは、配当性向は何%なら安全か|東証の集計データで「業種別の目安」を確かめるで東証の全社集計を2年分開いて確かめたので、本記事では深追いしません。

純資産配当率(DOE) ― 会計基準で、欄の名前が3つに分かれる

DOEも東証が計算式を指定しています。ただし、決算短信での欄の名前は会計基準によって3通りです。

会計基準 決算短信での欄の名前 分母
日本基準(第1号様式) 純資産配当率(連結) (期首1株当たり連結純資産+期末1株当たり連結純資産)÷2
IFRS(第3号様式) 親会社所有者帰属持分配当率(連結) (期首1株当たり親会社所有者帰属持分+期末1株当たり親会社所有者帰属持分)÷2
米国基準等(第4号様式) 株主資本配当率(連結) (期首1株当たり株主資本+期末1株当たり株主資本)÷2

分子はいずれも「当該事業年度に基準日が属する普通株式に係る1株当たり個別配当金(合計)」で共通です。そして、「DOE」というアルファベット3文字は、作成要領66ページのどこにも出てきません。短信でDOEを見るときは、この3つの欄名のどれかを探すことになります。保有3社でいえば、三井住友FGと三菱UFJが「純資産配当率(連結)」、IFRSを採用しているJTが「親会社所有者帰属持分配当率(連結)」でした。

DOEが約束しているのは、株主資本に対する割合です。純資産は利益ほど激しく動かないので、利益が落ちても配当が急落しにくい。その代わり、利益が伸びたときの増配ペースは約束していません。この裏表については第6章で改めて扱います。

累進配当 ― 公的な定義がない

まず押さえておきたいのは、累進配当に公的な定義がないことです。前章のとおり、東証の作成要領には「累進」の2文字が一度も出てきません。

世の中に出回っている説明の中では、野村證券の用語解説集が分かりやすいと思います。株主に支払う配当金を毎年増配、または最低でも横ばいの水準で配当し続けること、というものです。大和総研は「1株あたりの配当金の水準を、直近の実績と同水準かそれを上回るとする」と書き、日本経済新聞社は指数の説明で「減配せず、増配か配当維持を続ける」と書いています。証券会社・調査機関・指数会社で言い回しは違いますが、中身は同じです。

約束しているのは、前期の1株配当を下回らないこと。約束していないのは、増配の基準と、その方針がいつまで続くかです。この2つが空白のまま残るところが、あとで効いてきます。

「累進配当を名乗る会社」と「累進配当指数の銘柄」は別の集合

「累進配当」で検索すると、日本経済新聞社が算出している日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)に行き当たります。指数プロフィルによれば、国内に上場する銘柄のうち累進的な配当を続けているものの中から、予想配当利回りの高いものを選ぶ、時価総額ウエート方式の株価指数です。

項目 内容
母集団の条件 10年以上連続して累進的な配当を続ける銘柄
銘柄数 30
銘柄入れ替え 年1回(6月末)
対象 国内証券取引所に上場する銘柄(TOKYO PRO Marketを除く)
公表開始日 2023年6月30日(遡及算出開始日2010年6月30日、基準日2010年6月30日=10,000)

注目したいのは母集団の条件です。「10年以上の実績」であって、「会社が累進配当を名乗っていること」ではありません。つまり、名乗っている会社の集合と、指数に入っている銘柄の集合は、そもそも別物として設計されています。

この「名乗り」と「実績」のずれは、保有3社を調べたときにも出てきました。「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJで、方針の言葉と実際の配当の動きが一致していなかったことを整理しています。

なお、この指数の算出要領PDFは画像ベースで、私の手元ではテキストを読み取れませんでした。「累進的」をどう厳密に判定しているかまでは確認できていないので、ここでは公式サイトの指数プロフィルに書かれている範囲にとどめます。

総還元性向 ― 分子に自社株買いが入る

野村證券の用語解説によれば、配当金と自社株買いの金額を合計し、当期純利益で割って求める指標です。この語も、東証の作成要領には出てきませんでした。会社が説明資料で任意に出している数字です。

約束しているのは、配当と自社株買いを合わせた還元の割合です。約束していないのは、配当の金額。自社株買いに寄せれば、総還元性向が高くても、株主の口座に現金は入ってきません。生活費を配当でまかなっている側からすると、ここは分子の内訳まで見ないと判断できないところです。自社株買いそのものの仕組みと株主にとっての意味は、別の記事で改めて扱います。

出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27-28/野村證券「証券用語解説集|累進配当」「証券用語解説集|総還元性向」/日本経済新聞社「日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)」指数プロフィル/大和総研 中村昌宏「「累進配当」を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.1(いずれも2026年8月15日取得)

4. 同じ「累進配当」でも、設計はここまで違う

公式サイトに「累進配当」を掲げている会社を6社選んで、方針文を原文のまま並べました。要約すると差が消えてしまうので、あえてそのまま書き写しています。

先に断っておくと、このうち私が保有しているのは三井住友FGだけです。ほかの5社は、方針文の書き方の実例として引いているだけで、良い悪い、買う売るといった評価はしません。業績にも触れません。

会社 方針文(原文の該当部分) 組み合わせている指標 期間の限定 自社での用語定義
住友商事(8053) 「総還元性向を40%以上として、配当及び柔軟かつ機動的な自己株式取得を実施する」「累進配当*1 により、配当の更なる安定性向上及び利益成長に応じた増配を目指す」
*1 1株当たり年間配当金の前期実績に対して、配当維持または増配を行うもの
総還元性向40%以上 「中期経営計画2026」以降 あり(脚注で自社定義)
双日(2768) 「2024年4月にスタートした『中期経営計画2026』では、株主資本DOE4.5%(※1)とする累進的な配当方針としております」
※1 株主資本:その他の資本の構成要素(為替換算調整勘定、その他評価差額金、繰延ヘッジ損益等)を除外した前期末自己資本/株主資本DOE:支払配当 ÷ 株主資本
DOE 4.5% 「中期経営計画2026」 あり(DOEの分母を自社定義)
マルハニチロ/Umios(1333) 「中期経営計画『For the ocean, for life 2027』期間(2026年3月期〜2028年3月期)においては、配当性向30%以上を前提とした累進配当を基本方針とし…」 配当性向30%以上 あり(3年間と明示) なし
三菱ガス化学(4182) 「自己株式の取得を含めた親会社株主に帰属する当期純利益に対する総還元性向50%を中期的な株主還元の目安とし、財務健全性を損なわない限り減配は避けつつ累進的な配当政策を志向する『累進配当方針』を採用しております。また、DOE(自己資本配当率)についても、配当水準の指標とし、DOE 3.0%を中期的な配当額の目標としております。」 総還元性向50%+DOE 3.0% 中計期間(2025年3月期〜2027年3月期) なし(ただし「財務健全性を損なわない限り」という条件付き)
三菱商事(8058) 「2025年度より開始された『経営戦略2027』においても、「累進配当」の方針を継続致します。」 (このページ上には比率の記載なし) 経営戦略2027 なし
三井住友FG(8316) 「配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります。」
新中期経営計画では「累進的配当方針の進化:「減配しない」から、「毎期増配」へ」
配当性向40% (中計で「進化」と表現) なし

並べてみると、読み取れることが4つあります。

組み合わせている比率目標が、5通りに分かれています。総還元性向40%以上、DOE4.5%、配当性向30%以上、総還元性向50%とDOE3.0%の併用、配当性向40%。「累進配当」の4文字だけを見れば6社とも同じに見えるのに、その隣に置かれている数字は全部違います。

期間の扱いも違います。マルハニチロは「2026年3月期〜2028年3月期においては」と3年を明示しています。三菱商事は新しい経営戦略が始まるタイミングで「継続致します」とわざわざ表明している。逆に言えば、表明し直す必要があるということは、放っておいても続くとは限らないのです

住友商事と双日は、自社で用語の意味を脚注に書いています。住友商事は「1株当たり年間配当金の前期実績に対して、配当維持または増配を行うもの」と累進配当そのものの意味を、双日はDOEの分母を、それぞれ自分で書いている。裏を返せば、脚注のない会社では、読む側が言葉から意味を推測するしかありません。

三菱ガス化学の「財務健全性を損なわない限り」は、累進配当に条件が付いている実例です。この一節があるかないかで、方針文の意味はかなり変わります。

大事なのは、「累進配当と書いてあるかどうか」ではなく、「その1文の前後に何が書いてあるか」のほうです。方針文は長くても数行です。要約せずに全部読む。それだけで十分に実用的な作業になります。

なお、累進配当を掲げている会社はこの6社に限りません。設計の違いを見るために選んだ例なので、「日本企業はこうなっている」と一般化できるものではありません。

出典(いずれも2026年8月15日に各社公式サイトから取得):住友商事「株主還元情報」/双日「配当・株主還元」/マルハニチロ(Umios)「配当金・配当政策・株主優待」/三菱ガス化学「株主還元・配当」/三菱商事「株主還元情報」/三井住友フィナンシャルグループ「株主還元方針・配当情報」および2025年度決算投資家説明会資料 2026年5月18日, p.54-55

5. 「DOE 3%」の分母は、会社ごとに違う

前章で双日の脚注に「前期末自己資本」という言葉が出てきました。ここに、もうひとつ確かめておきたい落とし穴があります。

第3章のとおり、東証は決算短信のDOEの計算式を指定しています。ところが、会社が方針として掲げるDOEは、その式と違う分母を使っていることがあります。4つ並べます。

出どころ 分子 分母
東証・決算短信(日本基準) 1株当たり個別配当金(合計) (期首1株当たり連結純資産+期末1株当たり連結純資産)÷2
三井住友FG・決算短信の注記 普通株式配当金総額 (期首自己資本+期末自己資本)÷2
双日・方針 支払配当 前期末自己資本(為替換算調整勘定、その他評価差額金、繰延ヘッジ損益等を除外)
大同特殊鋼・方針 支払配当 (前期末の)株主資本(その他の資本の構成要素を除外した親会社所有者帰属持分)

違いは2点です。ひとつは期首と期末の平均をとるか、前期末の一時点だけを使うか。もうひとつはその他の資本の構成要素(為替換算調整勘定など)を分母に含めるか、除くか。

これは、会社が数字をよく見せようとしているという話ではありません。為替や評価差額のように事業の実力と直接つながらない変動を配当の基準から外しておきたい、というのは経営判断として説明のつくものです。私がここで書きたいのは是非ではなく、「DOE」という同じ3文字に、複数の計算が同居しているという事実だけです。

実務的な結論は単純です。会社の方針ページで、DOEの横に付いている※印の注記を必ず読む。注記がなければ、決算短信の純資産配当率の欄と会社の目標値を直接比べないほうが安全です。同じ「3%」でも、違う式で出した3%かもしれないからです。

出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27/三井住友フィナンシャルグループ「2026年3月期 決算短信」2026年5月15日, p.1注記/双日「配当・株主還元」/大同特殊鋼「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」2025年10月30日, p.1

6. 市場全体では、いま何が起きているか

ここまでは言葉の話でした。次に、その言葉を掲げる会社が増えているのか減っているのかを、大和総研の集計で確かめます。以下の数値はすべて、大和総研が公表しているレポートによるものです。東証や金融庁の見解ではなく、民間の調査機関が独自に集計・分析したものだという前提で読んでください。

出発点は、2023年3月末の東証の要請

大和総研は一連のレポートで、株主還元方針の見直しが増えた背景をこう整理しています。2023年3月末に東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、それ以降、上場企業の間で株主還元方針を変更する動きが活発になった、と。2025年9月11日のレポートでは、それ以前の転機としてコーポレートガバナンス・コードの適用開始(2015年)、東証による市場区分の見直し(2022年4月)、アクティビストの存在感の高まりも挙げられています。

なお、この要請そのものの通知文書は、私はまだ取得できていません。ここでは大和総研が要約している内容を紹介するにとどめ、要請の中身には踏み込みません。文書の所在は日本取引所グループのサイトにあります。

主要企業の3社に2社が、比率目標を掲げている

TOPIX500構成企業の有価証券報告書「配当政策」を集計した結果です。ここでの「2024年度」は、2024年4月1日から2025年3月31日までに決算期末を迎えた事業年度を指します。

年度 集計対象 比率目標あり 採用率
2014年度 476社 186社 39.1%
2022年度 495社 286社 57.8%
2023年度 496社 299社 60.3%
2024年度 497社 320社 64.4%

10年で39.1%から64.4%へ。さらに、比率目標を掲げていない177社のうち15社が、翌事業年度から採用すると記しています。撤回がないと仮定すれば67.4%、つまり3社に2社になる、と大和総研は書いています。

では、その目標値はどのくらいの水準に置かれているのか。

指標 最頻値 平均値 前年度比(平均値)
配当性向 30% 37.0% +1.0pt
総還元性向 50% 49.2% +0.9pt
DOE 3% 3.6% +0.3pt

ここは注意が必要です。この表は「会社が自分で掲げた目標値」の分布です。実際にその年いくらだったかという実績値ではありません。実績値のほうは東証が全社集計を公表していて、そちらは配当性向は何%なら安全か|東証の集計データで「業種別の目安」を確かめるで2年分を開いています。目標値と実績値は別の軸なので、混ぜて読むと話が合わなくなります。

直近は「新設」より「引き上げ・変更」のフェーズ

次は適時開示ベースの集計です。株主還元方針に関する開示が、半年ごとに何件出て、その中身がどうだったか。

  2025年1-6月 2025年7-12月 2026年1-6月
開示件数 266件 101件 239件
うち増配を伴う開示 198件(74%) 63件(62%) 180件(75%)
比率目標の新設 61件(23%) 18件(18%) 31件(13%)
比率目標値の引き上げ 96件(36%) 32件(32%) 101件(42%)
方針の追加または変更 102件(38%) 35件(35%) 116件(49%)

新設の比率が23%から13%へ下がる一方、引き上げが36%から42%、追加・変更が38%から49%へ上がっています。ひととおり掲げ終えて、中身を調整する段階に入っているように見えます。ちなみに2025年通年の開示件数は364件で、大和総研によれば2009年以降で最多でした(2026年8月3日のレポートが示す上半期266件・下半期101件を単純合計した367件とは一致しません。集計元のレポートが異なります)。

では、2026年上半期に新設・追加された方針は、どの指標だったのか。ここが本題です。

方針 新設・追加(他方針からの変更を含む) 撤回(他方針への変更を含む)
DOE 58 2
累進配当 48 5
配当性向 39 32
総還元性向 15 13
配当金の下限 13 12

DOEと累進配当は、新設が撤回を大きく上回っています。一方で配当性向は撤回32件が新設39件に迫っており、総還元性向や配当金の下限も新設と撤回の件数差が小さくなっています。いま起きているのは、業績に連動する配当性向を手放して、業績に連動しにくいDOEや累進配当に切り替える流れだと読めます。

「下がりにくい」の裏側にあるもの

ここが、この章でいちばん書きたかったところです。大和総研は2026年8月3日のレポートで、こう指摘しています。

DOE や累進配当は、当期純利益を基準とする配当性向や総還元性向に比べ、業績が悪化しても減配する可能性が相対的に小さいというメリットがある。このことは、言い換えると業績が大きく伸びた際には、配当性向や総還元性向を採用した場合ほど、株主還元額が増えないことを意味する。

下振れを止める仕組みは、同時に上振れも止めます。当たり前といえば当たり前なのですが、「累進配当だから安心」という読み方をしていた頃の私は、この裏側をまったく見ていませんでした。

同レポートはもう一点、気になることを書いています。DOEを新設・追加したケースのうち約4割の企業は、配当性向や総還元性向といった業績連動型の方針を採用していない。そして直近1年間(2025年下半期から2026年上半期)については、その業績連動型を採用していない企業の8割が、ひとつの型に当てはまるといいます。それまで採用していた配当性向または総還元性向を撤回して、DOEに変更したケースです(「約4割」「8割」は同レポートの表現です)。さらに、こんな指摘もあります。

大和総研は「DOEの目標値を決めた経緯が、今後の平均的な利益水準の見通しを含めて開示資料の中で説明されているケースは確認できていない」とも指摘しています。

目標として置かれた3%なり4.5%なりが、その会社の中長期の利益水準に対して妥当なのかどうかが、外からは見えにくいということです。

いっぽう、2025年9月11日のレポートでは、組み合わせる形が多いことと、その利点も指摘されています。新しくDOEや累進配当を採用するというより、業績連動性の高い配当性向や総還元性向をすでに採用している企業が、そこに追加する例が多い。組み合わせておけば、業績が拡大したときの配当の上振れと、悪化したときの減配リスクの限定と、その両面に対応できる、という整理です。

つまり、方針文を読むときに見るべきは、「下振れを止める方針」と「上振れを取りにいく方針」を会社が両方持っているかどうか。第4章の6社比較表は、その組み合わせの実例が並んだ表でもありました。住友商事は累進配当と総還元性向40%以上、三菱ガス化学は累進配当と総還元性向50%とDOE3.0%、三井住友FGは累進的配当方針と配当性向40%。逆に、三菱商事の株主還元情報のページには、累進配当の方針は書かれていても比率目標の記載はありませんでした。

出典:大和総研 中村昌宏「安定配当型の方針が増えた2026年上半期の株主還元方針」2026年8月3日, p.2・p.3(図表3)・p.4(図表4)・p.6/同「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.1-3(図表1・図表2)/同「増加してきた株主還元方針の見直しに一服感」2026年1月30日/日本取引所グループ「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(2026年8月15日取得)

7. 方針は変わる。「累進」は永久の約束ではない

「累進配当」という言葉から、私は長いあいだ「ずっと減配しない」という意味を受け取っていました。ここを確かめます。

撤回した企業が、実際にある

大和総研は2026年6月16日のレポートで、累進配当の課題としてこう書いています。

配当方針自体が変更される場合があり、「予想していなかった減配」に投資家が直面する可能性があることである。(中略)実際、2025年1月以降で、累進配当を撤回、あるいは方針の文言から「累進配当」の表現を削除した企業は10社ある。

10社の社名は公表されていないので、ここでは件数だけを事実として受け取ります。

同レポートは、すでに一部の企業が期間や条件を明示していることも報告しています。現在の中期経営計画が進行している間は減配しない、「原則として」という条件を付ける、特別配当を除いた普通配当だけを累進配当とする。こうした書き分けが現れている、という指摘です。そのうえで、「累進」という言葉から投資家やメディアが想起する時間軸と、経営陣が考える時間軸が一致しない確率が相応にあるのなら、他の文言に変えたり意図を伝えやすい文言を追加したりする工夫が必要だろう、と結んでいます。

ここで第4章に戻ると、話がきれいにつながります。マルハニチロが「2026年3月期〜2028年3月期においては」と3年を区切っているのも、三菱ガス化学が「財務健全性を損なわない限り」と条件を付けているのも、三菱商事が新しい経営戦略の開始時に「継続致します」と表明し直しているのも、この「期間を区切る、条件を付ける」の実例そのものです。大和総研の一般論と、実在の方針文が正確に噛み合っています。

方針変更の開示は、変更前と変更後が並べて書いてある

では、方針が変わったとき、読者は何を見ればいいのか。適時開示の実物を1つ見ておきます。大同特殊鋼(5471)が2025年10月30日に出した「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」です。この会社も保有していません。開示文書の読み方の例として引きます。

<従来>
・安定した利益還元を基本とし、連結配当性向30%以上を目安とする。
・キャッシュ・アロケーションの進捗を踏まえ、株主還元強化を検討する。

<変更後>
・財務の健全性を維持することを基本とし、連結配当性向30%以上を目安とする。
 ただし、下限指標をDOE(株主資本配当率)2.5%(※)とする。
・キャッシュ・アロケーションの進捗を踏まえながら、自己株式取得についても検討する。

※株主資本:その他の資本の構成要素を除外した親会社所有者帰属持分/DOE:支払配当÷(前期末の)株主資本

この形式のありがたいところは、差分だけを読めば済むことです。この開示の場合、「連結配当性向30%以上」はそのまま残り、そこに「DOE 2.5%の下限」が足されました。つまり上限を上げたのではなく、下限を作った変更です。第6章で見た「配当性向を手放してDOEへ」という流れの中では、組み合わせ型の実例にあたります。※印の注記に分母の定義が書かれているのも、第5章で確かめたとおりです。

会社が挙げている変更理由は、株主還元の充実と資本効率の向上を図ることを目的として下限DOEを導入し、安定的な配当を実現するというもの。適用は2026年3月期からとされています。

この開示では、配当予想も同時に修正されています。

  中間 期末 年間
前期実績(2025年3月期) 21円 26円 47円
直近予想(2025年5月8日公表) 16円 未定 未定
今回(2025年10月30日) 22円(決定) 27円 49円

ここは読み方に注意が必要です。中間配当は16円から22円へ6円増えていますが、これは5月時点の予想からの修正であって、前期実績21円と比べれば1円の差です。「6円の増配」と書いてある記事を見かけたら、どの数字とどの数字を比べているのかを確かめたほうがいい。私が引っかかりやすいのは、いつもこの手の比較の基準点でした。

配当を減らしにくい会社をどう見分けるかについては、【保存版】減配しない高配当株の見抜き方|累進配当銘柄を"構造"で選ぶ、実例と分析の完全ガイドにもまとめています。ただし本章で見たとおり、方針そのものが変わりうる以上、一度確認して終わりにはできません。

出典:大和総研 中村昌宏「『累進配当』を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.5/大同特殊鋼「株主還元方針の変更、剰余金の配当および配当予想の修正に関するお知らせ」2025年10月30日, p.1(2026年8月15日取得)

8. 下落局面で実際に何が起きたか

この記事では株価に触れないと最初に書きました。ここだけは例外にします。個別銘柄の株価ではなく、過去に終わった3つの下落局面を対象にした指数ベースの分析だからです。

大和総研は2026年6月16日公表のレポートで、累進配当を採用している企業の株価が、下落局面でTOPIXを上回ったことを報告しています。

下落局面 日経平均 TOPIX 底打ち時の対TOPIX相対株価(中央値) TOPIXを上回った企業の割合
①2024/7/11→2024/8/5 ▲25.5% ▲24.0% 106.6% 8割強
②2025/3/26→2025/4/7 ▲18.1% ▲18.6% 103.6% 7割強
③2026/2/27→2026/3/31 ▲13.2% ▲11.2% 102.6% 6割強

対象企業数は①104社、②149社、③221社。TOPIX500構成企業の有価証券報告書「配当政策」の記載、または2022年1月以降の適時開示資料をもとに大和総研が調査したものです。

ここは、書かれていないことのほうが大事だと思います。3点あります。

これは中央値であって、全社ではありません。③の局面で言えば、TOPIXを上回ったのは6割強。裏返せば4割近くは上回っていません。しかも局面が新しくなるほど、上回った企業の割合(8割強→7割強→6割強)も相対株価の中央値(106.6%→103.6%→102.6%)も下がっています。

下がった局面の話です。同レポートは、株価が反転すると相対株価の中央値は下落する、と書いています。さらに、2023年末から2026年5月末にかけて日経平均は2.0倍、TOPIXは1.7倍と大幅に上昇しており、累進配当を採用した効果は表れにくい期間だった、とも指摘しています。上がる場面では効きにくい、という但し書きが本文に付いているわけです。

そして、これは過去に起きたことの記録であって、次の局面で同じことが起きる保証はどこにもありません。私はこの表を「だから累進配当を掲げている会社を買えばいい」という意味では読んでいません。第6章で見た「下がりにくい代わりに上がりにくい」という性質が、株価の面でも同じ形で観測されている、という確認として読んでいます。下がりにくさを買うということは、上がりにくさも一緒に引き受けるということです。

出典:大和総研 中村昌宏「『累進配当』を採用するメリットと課題」2026年6月16日, p.2-4(図表1〜3)

9. 保有3社を、4つの言葉で並べる

冒頭で手が止まった3社に戻ります。ここまで見てきた4つの言葉を軸に並べ直すと、何が見えるか。

まず方針文のほうです。この3社の公式ページは2026年8月15日に再度取得しましたが、3日前に確認した内容と一字一句変わっていませんでした。

銘柄 方針文(原文) 4つの言葉のうち使っているもの
JT(2914) 「資本市場における競争力のある水準として配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)とする」「自己株式の取得は、当該年度における財務状況及び中期的な資金需要等を踏まえて実施の是非を検討」 配当性向のみ
三井住友FG(8316) 「配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります」 累進配当+配当性向
三菱UFJ(8306) 「配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする」 配当性向のみ(「安定的・持続的な増加」は累進配当という語ではない)

三菱UFJの「安定的・持続的な増加」を累進配当と呼びたくなるところですが、会社はその語を使っていません。第3章で見たとおり累進配当には公的な定義がなく、会社が自分の言葉で書くしかない領域です。だからこそ、書いていない言葉を読む側が補うのは危ないと考えて、私はここを分けて扱っています。

次に実数です。

  JT(2914)
2025年12月期
三井住友FG(8316)
2026年3月期
三菱UFJ(8306)
2026年3月期
会計基準 IFRS 日本基準 日本基準
方針上の配当性向 75%目安(±5%) 40%を維持 40%程度
配当性向 実績 85.0%(調整後ベース)
81.4%(報告ベース)
38.0% 40.3%
DOEの欄の名前 親会社所有者帰属持分配当率(連結) 純資産配当率(連結) 純資産配当率(連結)
DOE 実績 10.6% 3.9% 4.6%
総還元性向 (会社は公表していない) 54% 60.8%
「累進配当」の表記 なし あり なし

この表から、3つ書いておきます。

JTのDOE 10.6%は、目標値の統計と並べてはいけない数字です。第6章で見た主要企業のDOE目標値は最頻値3%、平均3.6%でした。10.6%はそれを大きく上回っています。ただしJTは「DOE◯%を目標とする」と一切公表していません。これは配当性向75%目安に沿って配当額を決めた結果、あとから計算されて出てくる実績値であって、会社が置いた目標ではない。目標値の分布と並べて高い低いを論じることはできません。DOEという欄には、目標として置かれた数字と、結果として出てきた数字の2種類が混在しているということです。

方針値との距離は、3社で違います。三菱UFJは40%程度の方針に対して40.3%でほぼ一致。三井住友FGは40%維持に対して38.0%とやや下回る。JTは75%±5%、つまり上限80%に対して調整後ベースで85.0%です。累進配当を掲げている三井住友FGが、直近では比率目標を下回っているというねじれについては、「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJで3社の増配実績と併せて追いました。

三井住友FGの「累進的配当方針+配当性向40%」は、第6章で大和総研が指摘していた組み合わせ型に当てはまります。下振れを止める方針と、業績に連動する方針を両方持っている形です。これは方針の設計がその型に該当するという事実の確認であって、だからこの会社が優れている、という話ではありません。実績のほうは上に書いたとおり方針値を下回っています。

もうひとつ、業種の傾向も見ておきます。大和総研が2025年9月11日のレポートで出している業種別の採用率(TOPIX500の主要企業の有価証券報告書ベース)では、累進配当の採用率が高いのは卸売業32%、銀行業25%、食料品19%。DOEは機械34%、化学29%、輸送用機器26%でした。銀行業の三井住友FGが累進配当を掲げ、食料品のJTが掲げていないのは、業種ごとの傾向で見れば特別に珍しい話ではありません。

なお大和総研は、別の母集団(東証プライム・スタンダードの各業種に対する新設・追加企業数の比率)でも業種別の数字を出しています。定義が違うので、ここでは前者だけを使いました。

3社それぞれの中身は個別の記事に分けています。【三井住友FG(8316)】6期連続増配、でも「累進配当」で合ってる?【JT(2914)】配当272円へ増配。JTって減配したこと、ないんでしたっけ?【三菱UFJ(8306)】保有株主として確認しておきたい配当と資本の状況の3本です。

出典:JT「株主還元方針・配当」/三井住友フィナンシャルグループ「株主還元方針・配当情報」/三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主還元方針」(いずれも2026年8月15日取得)/各社の2025年12月期・2026年3月期 決算短信および決算説明資料/大和総研「株主還元に比率目標を掲げる主要企業が6割を超える」2025年9月11日, p.1

まとめ:方針文を読むときの5つの確認

一次資料を開いて分かったのは、探していた「どの方針がいちばん安心か」という順位が、そもそも存在しないということでした。あるのは、それぞれが何を約束して、何を約束していないかという対応関係だけです。

言葉 約束していること 約束していないこと
配当性向 利益に対する配分の割合 配当の金額。利益が落ちれば配当も落ちる
総還元性向 配当+自社株買いの合計の割合 配当の金額。自社株買いに寄れば配当は増えない
DOE(純資産配当率) 株主資本に対する割合。利益が落ちても配当が急落しにくい 利益が伸びたときの増配ペース
累進配当 前期の1株配当を下回らないこと 増配の基準と、その方針がいつまで続くか

そのうえで、私が方針文を読むときに実際にやっている確認を5つ、チェックリストの形にしておきます。

方針文にこう書いてあったら 確認すること
「配当性向◯%」 分母の利益が調整後か報告ベースか。JTのように2種類ある会社がある
「DOE ◯%」 ※印の注記で分母の定義を確認する。期首期末の平均か前期末の一時点か。その他の資本の構成要素を除いているか
「累進配当」 ①どの期間についてか(中期経営計画の間か、期間の記載がないか) ②条件が付いていないか(「原則として」「財務健全性を損なわない限り」「特別配当を除く」) ③増配の基準が別に書いてあるか
「総還元性向◯%」 分子のうち配当と自社株買いの内訳。自社株買いに寄れば手元に現金は入らない
「安定配当」 大和総研が「配当金の水準を維持することなのか、それとも減配してでも配当を継続することなのかと解釈に幅があり、分かりやすい表現ではなかった」と書いている表現。比率目標が併記されているかを見る

結局のところ、この記事でやったことは、会社が書いた数行の文章を要約せずに読む、それだけです。決算短信を開けば、配当性向と純資産配当率の2つは、どの会社でも同じ定義で並んでいます。それ以外の言葉は、会社が自分で書いた文章の中にしかありません。だから「累進配当と書いてあるから安心」ではなく、その1文がどの資料のどこに、どういう条件付きで置かれているかを見る。

DOEそのものの読み方と採用企業の傾向、そして自社株買いが株主にとって何を意味するのかは、それぞれ別の記事で改めて掘るつもりです。

あわせて読みたい

【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の株主還元方針・配当性向・DOE・総還元性向に関する情報は、執筆時点(2026年8月15日)に東京証券取引所、各社および調査機関が公表している資料にもとづく整理です。文中で紹介した集計・分析のうち、開示件数・採用率・目標値の分布・下落局面の株価に関するものは、いずれも大和総研が公表しているレポートによるものであり、東京証券取引所や公的機関の見解ではありません。決算短信作成要領の語の出現回数は、筆者がPDFを取得して数えたもので、東京証券取引所が公表している数値ではありません。本記事で言及した住友商事・双日・マルハニチロ(Umios)・三菱ガス化学・三菱商事・大同特殊鋼は筆者の保有銘柄ではなく、方針文および開示文書の書き方の実例として引用したものです。配当方針および配当予想は将来の実現を保証するものではなく、変更される可能性があります。最終的な判断は、必ず各社の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。

配当性向は何%なら安全か|東証の集計データで「業種別の目安」を確かめる

こんにちは、配当日記です。

手元の表計算ソフトに、保有している3社の配当性向を並べた行があります。日本たばこ産業(JT・2914)が85.0%、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が40.3%、三井住友フィナンシャルグループ(8316)が38.0%。JTだけは会社が使っている調整後ベースの数字で、この使い分けは記事の後半で説明します。

並べた瞬間に、手が止まりました。

検索すれば「一般的に30%程度が目安」という説明はすぐ出てきます。ではJTの85.0%は行き過ぎなのか。銀行2社の40%前後は健全なのか。そもそも、その30%はどこの誰が何社を数えて出した数字なのか。私はどれにも答えられませんでした。

前職はIT企業のシステムエンジニアです。仕様書に書いていない数値を現場の口伝えで運用すると、あとで必ず事故になる。その癖が抜けないまま投資を続けているので、出どころの分からない目安を家計の判断に混ぜるのが落ち着きませんでした。会社を離れたのは37歳、資産が3,000万円に届いた年です。しばらくは週3日ほどの仕事を残していましたが、それも終えて、いま家計に入ってくるのは配当金だけになりました。数字の根拠を確かめる手間は、以前より惜しまなくなっています。

そこで、東京証券取引所を運営する日本取引所グループが毎年公表している決算短信の集計ファイルを、直接ダウンロードして開きました。上場企業3,446社分の純利益と配当金総額が、33業種に分かれて入っている表です。2年分を並べて分かったことを、先に書きます。

「配当性向◯%以下なら安全」という基準は、一次資料のどこにもありませんでした。あるのは2種類の数字だけです。市場全体の実績値と、各社が自分で掲げた方針値。そして業種別の目安に至っては、同じ業種の数字が1年で半分以下になったり、倍近くに跳ねたりしていました。

なお本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を勧めるものでもありません。

この記事の内容

1. 配当性向とは何か。計算式は2通りある

読み方は「はいとうせいこう」。英語では payout ratio と呼ばれます。その期の純利益のうち、どれだけを配当に回したかを百分率で表した数字です。

計算式は、証券会社の用語集を見ると2通りの書き方が出てきます。

出典 計算式
SMBC日興証券 用語集 1株あたりの配当額 ÷ 1株あたりの当期純利益 × 100
大和証券 用語解説集 年間配当総額 ÷ 当期純利益
東証(決算短信集計の集計ルール) 配当金総額 ÷ 親会社株主に帰属する当期純利益

1株あたりで割っても、総額で割っても、理屈のうえでは同じ数字になります。初めて計算するなら、1株配当(DPS)÷1株利益(EPS)のほうが手を動かしやすいはずです。

細かい話をひとつ。東証が定めている決算短信の記載ルールでは、分子が「個別(単体)」の配当総額、分母が「連結」の当期純利益です。単体と連結が混ざった指標なんですね。国際会計基準(IFRS)を採用している会社は、分母が「基本的1株当たり当期利益」になります。あとで出てくるJTと資生堂が、これに当たります。

もうひとつ、野村證券の用語解説にはこう書かれています。「税引前当期純利益がベースになることもある」。同じ「配当性向」という言葉でも、会社や媒体によって計算の中身が違いうるということです。他人が出した配当性向をそのまま比べる前に、何を何で割った数字なのかを確かめる。ここが最初の分かれ道になります。

出典:SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集|配当性向」/大和証券「金融・証券用語解説集|配当性向」/野村證券「証券用語解説集|配当性向」/東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27(いずれも2026年8月15日取得)

2. 東証の集計で、市場全体は何%だったか

日本取引所グループは、上場する内国会社が出した決算短信を全社集計して毎年公表しています。直近の2025年度は、金融業を除く全産業3,446社が対象です。金融業4業種163社を足した3,609社の集計も、同じファイルに載っています。

ここで表記をひとつ決めておきます。東証の言う「2025年度」は、2025年4月期から2026年3月期までに決算日を迎えた会社をまとめたものです。個別の会社を引くときは「2026年3月期」「2025年12月期」と決算期で書き、市場全体の集計を引くときだけ「2025年度」と書きます。

長期の推移を抜き出しました。単位は%です。

年度 全産業 製造業 非製造業 (参考)純資産配当率・全産業
2006 25.17 24.60 26.26 2.33
2008 *(100%以上) …(算出不能) 52.63 2.31
2009 58.88 86.11 42.44 1.92
2013 29.20 30.74 27.05 2.34
2018 32.49 34.30 30.22 2.87
2019 47.71 52.90 42.63 2.87
2021 34.23 31.66 38.33 3.02
2023 34.17 34.76 33.38 3.01
2024 36.38 39.51 32.86 3.13
2025 38.08 45.67 30.93 3.28

「*」は100%以上、「…」は算出不能を表す記号です。数字はいずれも2026年7月10日現在の集計値です。

読めることが3つあります。

ひとつ目。危機の年を除けば、おおむね25〜38%の帯に収まっています。野村證券が2023年の記事で書いている「おおむね30%前後で推移」という説明は、2013年度から2018年度の実感としては、たしかに合っていました。

ふたつ目。直近3年は34.17→36.38→38.08と切り上がっています。「30%前後」という通説は、最新の実測値からは少し低い位置にあります。松井証券は「一般的に20〜50%程度」という幅で説明していますが、この幅なら直近も収まります。

三つ目が本題です。数字が跳ね上がるのは、危機の年でした。2008年度、つまりリーマンショックの年は全産業で100%超。製造業に至っては合計が赤字で、比率そのものが計算できていません。2019年度(2020年3月期を含む年度)は47.71%です。

配当を大盤振る舞いした年だったから、ではありません。分母の利益が落ちたから、比率が上がったのです。配当性向は、分子より分母で動きます。ここを取り違えると、「配当性向が高い会社=株主還元に手厚い会社」という読み違いをそのまま抱え込むことになります。私はしばらく抱えていました。

出典:日本取引所グループ「決算短信集計結果」2025年度 決算短信集計結果【連結】《合計》長期統計シート(2026年8月15日取得)/野村證券 NOMURAウェルスタイル「銘柄選びに役立つ2つの指標|配当利回りと配当性向」2023年6月8日/松井証券 マネーサテライト「配当性向とは?計算式や目安、高すぎるとどうなるかを解説」2025年8月22日

3. 業種別の「目安」は、1年で倍半分に動く

「配当性向は業種によって違う」という説明もよく見かけます。事実そのとおりで、2025年度の業種別の数字は大きくばらついています。全産業が38.08%なのに対して、上と下ではこうです。

業種 社数 配当性向 2025年度 配当性向 2024年度
鉄鋼 38 79.96 47.82
医薬品 77 75.53 59.94
繊維製品 44 67.58 43.64
食料品 121 55.13 62.33
ガラス・土石製品 49 37.43 83.80
銀行業 78 37.24 39.00
陸運業 57 27.27 22.58
空運業 5 23.59 25.09
情報・通信業 568 21.58 37.62
全産業 3,446 38.08 36.17

単位は%。2024年度の列は、2025年度ファイルの中で当期の集計対象会社について遡って集計された「前期」の数字です。2024年度単独で公表された値とはわずかにずれます。全産業の2024年度も、長期統計のシートでは36.38%、この前期の列では36.17%と、同じファイルの中で0.21ポイント違います。集計対象の会社が入れ替われば、市場全体の平均でさえこの程度は動くということです。

松井証券の説明を、翌年のデータで確かめる

業種別の数字には、たいてい理由の説明がセットで付いてきます。松井証券の記事は、2024年度の集計をもとにこう書いています。

ガラス・土石製品業界では配当性向が81.01%と最も高い水準となっています。これは、ガラス・土石製品企業が、インフラ産業への需要をもとに景気に左右されにくい安定した収益を確保しやすく、高配当を実現する堅実な財務基盤を有している傾向が強いためです。

一方で、電気・ガス業界では配当性向が16.06%と最も低い水準となっています。この業界では、インフラの維持や設備投資に多くの資金を必要とするため、事業拡大や安定運営のために内部留保を優先し、株主への還元が抑えられる傾向にあります。

筋の通った説明です。私も読んだときは納得しました。

引用中の81.01%は2024年度の集計ファイル自身の数値で、このあと使う83.80%は2025年度ファイルが同じ年度を遡って集計し直した値です。集計対象の会社が違うので、同じ業種・同じ年度でもこのくらいはずれます。

ところが、同じ東証データの翌年度を開くと、この説明では説明がつかなくなります。

業種 配当性向 2024年度 配当性向 2025年度 純利益の増減 配当金総額の増減
ガラス・土石製品 83.80% 37.43% +146.2% +9.8%
鉄鋼 47.82% 79.96% △49.8% △16.1%
電気・ガス業 16.07% 29.84% △35.0% +19.9%

ガラス・土石製品は、配当をほぼ据え置いたまま(配当金総額は+9.8%)、純利益が2.4倍あまりに増えました。その結果、配当性向は83.80%から37.43%へと半分以下になっています。前年の高さは、その業種の性格ではなく、その年の利益水準を映していた数字だったわけです。

鉄鋼は逆向きの動きをしています。純利益が半分近くまで減り、配当は16.1%しか減らさなかった。だから比率だけが80%近くまで跳ねました。

電気・ガス業も見ておきます。2024年度は16.07%で最下位でしたが、2025年度は29.84%。この間、配当金総額はむしろ19.9%増えています。増えているのに比率が上がったのは、純利益が前年比35.0%減だったからです。還元に消極的だから16%だった、という読み方は成り立ちません。なお、それぞれの利益がなぜ動いたのかについては、一次資料で裏を取れていないため、ここでは理由を断定しません。

業種別の配当性向は、その業種の性格ではなく、その業種のその年の利益水準を映している。だから、来年も同じ位置にあるとは限らない。目安として持ち歩ける数字ではありませんでした。

業種の数字は、たった1社で入れ替わる

もうひとつ、集計方法そのものに落とし穴があります。東証の集計方法の説明には、こう書かれています。

財務諸比率については、対象会社全社の実績数値の各項目を合計し、その合計値を基に比率を計算している

各社の配当性向を平均したものではない、ということです。全社の利益を足し、全社の配当を足してから割る。この方式だと、利益の大きい会社の影響が強く出ます。

いちばん分かりやすいのが、2025年度に21.58%と最下位だった情報・通信業(568社)でした。

  親会社株主に帰属する当期純利益 配当金総額 配当性向
情報・通信業 568社 合計 9,389,499百万円 2,034,361百万円 21.67%(東証の公表値は21.58%)
うち ソフトバンクグループ(9984) 1社 5,002,271百万円 62,686百万円 1.3%
(試算)同社を除いた567社 4,387,228百万円 1,971,675百万円 44.94%

ソフトバンクグループ1社で、情報・通信業568社の合計純利益の53.3%を占めています。この1社を差し引くと、業種の配当性向は21.58%から約45%へ、倍以上に変わりました。

この「除いた」計算は、私が東証の集計値から1社分を引いて出した試算です。東証が公表している数字ではありません。東証の公表値21.58%は比較可能な会社ベースで、単純に合計して割ると21.67%になります。試算では単純合計のほうを使いました。同社の数字は、決算短信の1ページ目に載っている当期利益5,002,271百万円と配当金総額62,686百万円をそのまま引いています。ここでは決算短信の読み方の例として数字を借りているだけで、この会社の配当方針を評価する意図はありません。

業種の平均を判断材料に使いたいなら、先にその業種で利益の上位を占めている会社が誰かを確かめる。手間はかかりますが、ここを飛ばすと1社の数字を業種の性格だと思い込むことになります。

出典:日本取引所グループ「2025年度 決算短信集計結果【連結】《合計》」および「2025年度 決算短信集計 集計方法の概要」p.1/松井証券 マネーサテライト「配当性向とは?計算式や目安、高すぎるとどうなるかを解説」2025年8月22日/ソフトバンクグループ「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2026年5月13日, p.1/業種区分は日本取引所グループ「東証上場銘柄一覧」2026年7月31日現在

4. 「配当性向がマイナス」は決算短信には存在しない

「配当性向 マイナス」という検索が一定数あります。赤字の会社の配当性向をどう読むか、という疑問だと思います。

答えははっきりしていて、決算短信の配当性向欄にマイナスの数字が載ることはありません。東証の作成要領が、そう定めているからです。配当性向と純資産配当率の計算式が示された直後に、こう書かれています。

※分母がマイナスの場合は、「-」を記載してください。

同じ注記は、IFRS採用会社向けの第3号参考様式にも、米国基準等向けの第4号参考様式にも置かれています。東証の全社集計でも扱いは同じで、さきほどの2008年度の製造業が「…(算出不能)」になっていたのが、その現れです。

実例を1つ。株式会社資生堂(4911)の2025年12月期の決算短信です。

項目 2024年12月期 2025年12月期
親会社の所有者に帰属する当期利益 △10,813百万円 △40,680百万円
基本的1株当たり当期利益 △27.06円 △101.83円
年間配当金 40.00円 40.00円
配当金総額 15,985百万円 15,981百万円
配当性向(連結)
親会社所有者帰属持分配当率(連結) 2.6% 2.6%

この1枚の表で、3つのことが同時に分かります。2期続けて最終赤字であること。それでも年40円の配当は据え置かれていること。そして配当性向の欄は2期とも「-」で、マイナスの数字にはなっていないこと。

株価情報サイトなどで「配当性向 △◯%」という表示を見かけることがありますが、あれは赤字の1株利益で機械的に割り算した結果です。会社が開示している数字ではありません。私はこれを会社の開示値だと思い込んでいた時期があり、決算短信の現物を開いて初めて取り違えに気づきました。

赤字でも配当を出せるのは、法律の建て付けによる

配当の上限を決めているのは、その年の当期純利益ではありません。会社法が定める「分配可能額」です。会社法第461条第1項には、こうあります。

次に掲げる行為により株主に対して交付する金銭等(当該株式会社の株式を除く。以下この節において同じ。)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならない。

そして同条第2項で、分配可能額は「剰余金の額」などを基礎に算定すると定められています。剰余金は過去から積み上がってきたストックです。その年の利益がゼロでも赤字でも、分配可能額が残っていれば、配当は制度上できる。これは良し悪しの話ではなく、そういう建て付けになっているという事実の説明です。

配当を減らしにくい会社をどう見分けるかについては、【保存版】減配しない高配当株の見抜き方|累進配当銘柄を"構造"で選ぶ、実例と分析の完全ガイドに別途まとめています。利回りの高さではなく、会社が配当をどう約束しているか(方針文の言葉づかい、DOEのような目標の置き方)から構造で見る、という組み立ての記事です。

出典:東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信 作成要領等」2026年7月, p.27-28/株式会社資生堂「2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2026年2月10日, p.1/会社法(平成十七年法律第八十六号)第461条(e-Gov法令検索で2026年8月15日取得)

5. 100%を超えるとき、何が起きているか

配当性向が100%を超えていれば、その期の利益より多い額を配当に回していることになります。この状態を指して「タコ足配当」と呼ぶ言い方があります。自分の足を食べるタコにたとえた表現で、稼いだ分ではなく過去の蓄えを取り崩して配っている、という含みで使われます。ただし決算短信に載るのは比率だけで、その年の配当が何を原資にしているかは、配当性向の欄からは読み取れません。

実際に100%を超えるとき、そこには型がいくつかあります。

型1は、利益が一時的に落ち込み、配当を据え置いた場合。典型的なのは市場全体でも起きた2008年度です。

型2は、一過性の損失で利益が凹んだ場合。保有しているJTが、この型の見本のような数字を出しています。

ベース 2024年12月期 2025年12月期
決算短信の記載(報告ベース) 192.2% 81.4%
JTのIRサイト掲載(調整後ベース) 74.3% 85.0%

2024年12月期に192.2%まで上がったのは、カナダ訴訟に関する損失引当金3,756億円を一括で計上し、利益が大きく凹んだためです。同じ期の調整後ベースでは74.3%。2倍以上の開きがあります。そしてJT自身が配当額の決定に使っているのは、調整後のほうです。冒頭で挙げた85.0%も調整後の数字で、報告ベースなら81.4%になります。

同じ会社の同じ期に、性格の違う配当性向が2つ並んでいる。どちらを見ているのかを言わずに数字だけ引くと、話が噛み合わなくなります。JTの配当と減配の履歴については、【JT(2914)】配当272円へ増配。JTって減配したこと、ないんでしたっけ?で2021年12月期の減配とその後の回復まで追いました。

型3は、会社自身が100%超を予想として出している場合。資生堂の2024年12月期の決算短信を開くと、配当の状況欄に2023年12月期の配当性向110.2%、2025年12月期の予想として266.3%という数字が記載されています。予想の段階で3ケタが載ることも、制度上はふつうにあるということです。ここでも数字を引いているだけで、この会社の判断について良し悪しを述べる意図はありません。

出典:JT「株主還元方針・配当」および「2025年12月期 決算短信」2026年2月12日, p.1/株式会社資生堂「2024年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」2025年2月10日, p.1

6. 配当性向が働かない場面で使える数字

ここまでの話をまとめると、配当性向の弱点は1つに集約されます。分母が毎年暴れることです。

さきほどの長期の表を、もう一度見てください。同じ会社群の同じ年で、2008年度の配当性向は100%超まで飛んでいるのに、いちばん右の純資産配当率(DOE)は2.31%です。前年が2.52%、翌年が1.92%ですから、平時とほとんど変わっていません。分母を利益ではなく純資産に取ると、指標の暴れ方がここまで違う。

資生堂の表でも同じことが起きていました。配当性向は2期とも「-」でしたが、親会社所有者帰属持分配当率は2.6%と数字が出続けています。配当性向が計算できない年でも、DOEなら比較ができる。大和証券の用語解説も、純利益の変動幅が大きいことを理由に、株主資本を基準にしたDOEを採用する企業が増えていると説明しています。

配当と自社株買いを合わせて見る「総還元性向」という指標もあります。野村證券の定義では、配当金と自社株買いの金額を合計し、当期純利益で割って求めるものです。

DOEそのものの読み方と、どんな会社が採用しているかは、別の記事で改めて掘ります。ここでは「配当性向が使えない場面でも数字が出る指標がある」というところまでにしておきます。

出典:日本取引所グループ「2025年度 決算短信集計結果【連結】《合計》」長期統計シート(2.52%・1.92%・2.31%の出所)/大和証券「金融・証券用語解説集|配当性向」/野村證券「証券用語解説集|総還元性向

7. 保有3社を、同じ年度の東証データに並べる

最後に、冒頭で手が止まった3つの数字に戻ります。東証の集計と同じ年度・同じ定義に揃えて並べると、何が見えるか。

3社の決算期は、いずれも東証の2025年度集計に含まれています。銀行2社の2026年3月期も、JTの2025年12月期も、2025年4月期〜2026年3月期の枠の中だからです。

銀行業78社と、メガバンク2社

  親会社株主に帰属する当期純利益 配当金総額 配当性向 純資産配当率(DOE)
銀行業 78社 合計(東証集計) 8,178,525百万円 3,046,623百万円 37.24% 3.38%
三菱UFJ(8306)・2026年3月期 2,427,200百万円 976,032百万円 40.3% 4.6%
三井住友FG(8316)・2026年3月期 1,582,973百万円 601,667百万円 38.0% 3.9%
(試算)上記2社を除く76行 4,168,352百万円 1,468,924百万円 35.24%

メガバンク2社だけで、銀行業78社の合計純利益の49.0%、配当金総額の51.8%を占めています。「銀行業の配当性向37.24%」という数字は、実質的にこの2社にかなり引っ張られた値です。2社を除いた76行の試算は35.24%でした。この試算も東証の公表値ではなく、私が集計値から2社分を差し引いて計算したものです。

そのうえで注目したいのは、業種の平均との距離ではありません。2社がそれぞれ自分で掲げている方針値が、どちらも「配当性向40%」だということです。MUFGは40.3%で方針どおり。三井住友FGは38.0%で、方針をやや下回っています。この2ポイントの差は、業種平均との比較からは絶対に出てこない情報です。

それぞれの中身は個別の記事に分けました。【三菱UFJ(8306)】保有株主として確認しておきたい配当と資本の状況ではCET1比率が会社のターゲットレンジを下回っている点まで、【三井住友FG(8316)】6期連続増配、でも「累進配当」で合ってる?では株式分割・株主優待新設のスケジュールまで整理しています。

食料品121社と、JT

JTは東証の33業種区分では「食料品」に分類されます。

  親会社に帰属する当期利益 配当金総額 配当性向
食料品 121社 合計(東証集計) 1,827,512百万円 1,009,390百万円 55.13%
JT(2914)・2025年12月期 510,175百万円 415,537百万円 81.45%(報告ベース)
(試算)JTを除く120社 1,317,337百万円 593,853百万円 45.08%

JTの81.45%は、配当金総額を当期利益で割って算出した報告ベースの数字です(決算短信の配当性向欄の記載は81.4%)。業種データと定義を揃えるため、ここでは調整後ではなく報告ベースを使っています。

JT1社で、食料品121社の配当金総額の41.2%を出しています。純利益のシェアは27.9%ですから、利益の割合以上に配当を出している計算です。JTを除いた120社の試算は45.08%で、業種の公表値55.13%より10ポイント低くなりました。これも私の試算です。

ではJTの81.45%は高すぎるのか。この問いに業種平均は答えてくれません。答えを持っているのは会社のほうで、JTは「配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)」と掲げています。レンジにすると70〜80%。調整後ベースの85.0%は、その上限をさらに上回っています。業種平均から見れば異常値、方針値から見れば上限からのわずかな超過。同じ数字が、比べる相手によってまったく違う意味になります。

ちなみに、この3社のうち株主還元方針に「累進配当」と書いているのは1社だけでした。詳しくは「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJにまとめています。

出典:日本取引所グループ「2025年度 決算短信集計結果【連結】《合計》」/三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信」2026年5月15日, p.1/三井住友フィナンシャルグループ「2026年3月期 決算短信」2026年5月15日, p.1/JT「2025年12月期 決算短信」2026年2月12日, p.1および「株主還元方針・配当」

まとめ:見るべきは水準ではなく、方針値との差

東証の集計ファイルを2年分開いて分かったのは、探していた基準が存在しないという事実でした。

一次資料にあるのは2種類の数字だけです。市場全体の実績値(2025年度・全産業3,446社で38.08%)と、各社が自分で掲げた方針値(JTは75%±5%、三井住友FGと三菱UFJは40%)。業種別の数字は毎年公表されていますが、ガラス・土石製品が1年で83.80%から37.43%へ動いたように、翌年まで持ち歩ける目安にはなっていませんでした。

私自身は、配当性向を単独では使わなくなりました。使うのは、会社が掲げた方針値との差を測るときだけです。方針値がある会社なら、実績がそこからどれだけ離れたか、離れたのは利益が動いたからか配当を動かしたからか、の2点で見ます。方針値を出していない会社では、配当性向という比率そのものがどこにも接続しないので、DOEなど別の数字を先に見ます。

そのうえで、この記事の数字から言えることを条件付きで3つ置いておきます。その年に利益が落ちた会社を探したいなら、配当性向の高い順に並べるやり方は機能します。ただし還元に積極的な会社を探す用途には向きません。業種の平均を判断材料にしたいなら、その業種で利益の上位を占める1〜2社を先に確認してください。情報・通信業のように、1社を除くと21.58%が約45%に変わることがあります。赤字の期の配当を見たいなら、配当性向の欄ではなくDOEの欄を見てください。配当性向は「-」としか出ません。

この記事には、意識して載せなかった数字があります。株価も、配当利回りも、PER・PBRも一度も出していません。日々動く数字で、公開した翌日には別の値になっているからです。

「◯%以下なら安全」と覚えるのではなく、その会社が自分で何%と言っていて、実績がそこからどれだけ離れているかを見る。手間は増えますが、こちらは翌年も使えます。

あわせて読みたい

【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の配当性向・配当金・株主還元方針に関する情報は、執筆時点(2026年8月15日)に東京証券取引所および各社が公表している一次情報にもとづく整理です。東証の集計値は2026年7月10日現在のもので、今後の更新により変わる可能性があります。文中で「試算」と明記した数値は、東証の公表値ではなく筆者が集計値から特定企業分を差し引いて計算したものです。配当予想および業績予想は将来の実現を保証するものではありません。最終的な判断は、必ず各社および東京証券取引所の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。

「累進配当」を掲げているのは3社のうち1社だけ|JT・三井住友FG・三菱UFJ

こんにちは、配当日記です。

「累進配当」という言葉を、私はずいぶん大づかみに使っていました。減配せず、少なくとも前年と同じ額を出し続ける方針。だいたいそういう意味だと覚えていて、高配当の銘柄をいくつか並べては「このあたりはどれも累進配当だろう」と考えていたのです。

その認識が雑だったと分かったのは、保有している3社のIRページを続けて開いたときでした。日本たばこ産業(JT・2914)、三井住友フィナンシャルグループ(8316)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG・8306)。個別の記事を書くために株主還元方針を原文で読み直したところ、この言葉を方針文に置いていたのは、3社のうち1社だけでした。

私はIT企業のシステムエンジニアを37歳で辞めています。元手は、それまでに貯めた3,000万円。しばらくは週3日ほどの仕事を残していましたが、退職から3年が経ったいま、家計に入ってくるのは配当金だけになりました。会社が配当について何をどこまで約束しているのかは、私にとって読み物ではなく、来年の家計の前提です。

この記事では、3社の株主還元方針を公式サイトの原文で並べ、そこに書かれている言葉と、実際の配当の動き方を突き合わせます。株価・配当利回りには触れません(理由は記事の最後に置きました)。

なお本記事は投資助言ではなく、特定銘柄の売買を勧めるものでもありません。

この記事の内容

1. 3社の方針を、公式サイトの原文のまま並べる

まず、各社が公式サイトに載せている株主還元方針から、配当に関する部分を抜き出します。要約せず、書かれているとおりに並べます。

銘柄 配当に関する方針文(原文) 「累進配当」の表記
日本たばこ産業(JT・2914) 資本市場における競争力のある水準として配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断)とする なし
三井住友フィナンシャルグループ(8316) 配当は、累進的配当方針および配当性向40%を維持し、ボトムライン収益の成長を通じて増配を実現してまいります あり
三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) 配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とする なし

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」/三井住友フィナンシャルグループ「株主還元方針・配当情報」/三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主還元方針」(いずれも2026年8月12日取得)

3社とも、配当性向という比率を軸に置いている点は共通しています。違うのは、その比率に添えられた言葉のほうです。

三井住友フィナンシャルグループだけが「累進的配当方針」と書いています。同社は2026年5月18日の投資家説明会資料で、この方針を次の中期経営計画でどう扱うかを説明していて、そこには「累進的配当方針の進化:『減配しない』から、『毎期増配』へ」とあります。あわせて、配当を株主還元の基本に据え、利益の伸びに応じた1株当たり配当の成長を毎期実現していく、という趣旨の説明も加えられています。

ここから読み取れるのは、同社にとって累進的配当方針とはこれまで「減配しない」という意味であり、これからはそれを一段進めて「毎期増配」に置き直す、という整理です。

出典:三井住友フィナンシャルグループ「2025年度決算 投資家説明会資料」(2026年5月18日)PDF p.54〜55

残りの2社の言葉は、これとは強さが違います。

三菱UFJは「安定的・持続的な増加」。増やしていく方向は示していますが、減らさないとは書いていません。日本たばこ産業の方針文にも「株主還元の向上を目指す」という一文はありますが、これは株主還元全体についての言葉で、配当そのものに置かれているのは「配当性向75%を目安」という比率だけです。減らさないとも、毎期増やすとも書かれていません。この建て付けでは、利益が減れば、その75%も減ります。

「高配当株はどれも累進配当」とまとめてしまうと、この差が丸ごと消えます。私がやっていたのは、まさにこれでした。

2. 「累進配当」と書いていない2社は、減配してきたのか

では、名乗っていない2社の配当は不安定だったのか。ここは分けて見る必要があります。方針の言葉と、実際の配当の動きは、必ずしも同じ向きを指していないからです。

日本たばこ産業は2021年12月期に減配している

同社の1株当たり年間配当は、2019年12月期と2020年12月期がともに154円。次の2021年12月期は140円で、14円下がっています(同社の資料では2019年度・2020年度・2021年度と表記されている期です)。

これは方針から外れた出来事ではありません。配当性向75%を目安とする建て付けは、利益が減れば配当も減る設計です。減配しないと書いていない会社が、実際に減配した。言葉と実績は、この点では一致しています。

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」内「1株当たり配当金・配当性向の推移」(2026年8月12日取得)

三菱UFJは2009年3月期に減配し、それ以降は減らしていない

三菱UFJの年間配当は、2008年3月期が14円、2009年3月期が12円。ここで減っています。

ただし、そこから先は違います。12円が4期続いたあと、13円・16円・18円と上がっていき、直近の2026年3月期は86円。2009年3月期の12円を底に、それ以降で前年を下回った期はありません。途中に同じ金額が続いた区間は何度もありますが、下げてはいないという意味です。

ここが、この記事でいちばん引っかかったところでした。それだけの期間、減配していない会社が、方針文には「累進配当」とも「減配しない」とも書いていない。書いてあるのは「安定的・持続的な増加」です。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「配当情報」(2026年8月12日取得)

三井住友FGは2019年3月期以降、減配していない

名乗っている側の実績も確認しておきます。同社が投資家説明会資料に載せている1株当たり配当の推移は、2019年3月期の60円から始まり、63円・63円・70円・80円・90円・122円・157円(2026年3月期)と続きます。2024年10月1日の株式分割(1株を3株)を遡って調整した、会社公表の数値です。

この期間に、前年を下回った期はありません。ただし2020年3月期と2021年3月期はともに63円で、横ばいの期はあります。

「減配しない」という約束は、「毎年増える」という意味ではない。同社が新しい中期経営計画で「『減配しない』から『毎期増配』へ」と書いたのは、この差を埋めにいく話だと読めます。

出典:三井住友フィナンシャルグループ「2025年度決算 投資家説明会資料」(2026年5月18日)PDF p.55

ここまでを整理します。

  • 累進的配当方針を掲げる三井住友FG:2019年3月期以降、減配なし(横ばいの期はあり)
  • 掲げていない三菱UFJ:2009年3月期に減配。それ以降は減配なし
  • 掲げていない日本たばこ産業:2021年12月期に減配

「名乗る/名乗らない」は、そのまま「減配しない/する」の差ではありませんでした。三菱UFJは実績があるのに慎重な言葉を選び、日本たばこ産業は最初から比率だけを掲げて、そのとおりに減配しています。方針文の言葉は、過去の実績の要約ではなく、会社が自分に課そうとしている縛りの宣言だと考えたほうが、読み違えが減ります。

3. 方針に書かれた比率は、実績と合っているか

方針文には、言葉だけでなく比率も書かれています。こちらは実績と突き合わせられます。

銘柄 方針に書かれた比率 直近の実績
日本たばこ産業 配当性向75%を目安(±5%程度の範囲内で判断) 85.0%(2025年12月期・調整後ベース)
三井住友フィナンシャルグループ 配当性向40%を維持 38.0%(2026年3月期)
三菱UFJフィナンシャル・グループ 配当性向40%程度 40.3%(2026年3月期)

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」(2026年8月12日取得)/三井住友フィナンシャルグループ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)p.1/三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)p.1

並べる前に、断っておくことがあります。日本たばこ産業の配当性向には2種類あります。同社がIRサイトに載せているのは、配当の算定基礎として使っている調整後の当期利益をもとにした数字で、決算短信の「配当性向(連結)」欄に載る報告ベースの数字とは一致しません。2025年12月期は調整後85.0%に対して報告ベース81.4%。2024年12月期にいたっては、調整後74.3%に対して報告ベース192.2%です。この記事では、同社が配当額の決定に使っている調整後ベースを使います。

出典:報告ベースの数値は日本たばこ産業「2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年2月12日)p.1「2.配当の状況」

そのうえで、順に見ます。

三菱UFJの40.3%は、方針の「40%程度」とほぼ重なります。前の期にあたる2025年3月期は40.0%、今期(2027年3月期)の予想は40.1%。比率で見るかぎり、書いてあるとおりに動いています。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)PDF p.4

日本たばこ産業の85.0%は、目安の75%から10ポイント上にあります。方針文に添えられた「±5%程度」の幅を上に取っても80%ですから、そこからさらに5ポイント離れた位置です。この期の配当について同社は、カナダにおける訴訟の和解にともなう負債の再測定の影響などを除いた調整後の継続事業からの当期利益4,886億円を算定基礎にしたと説明しています。次の2026年12月期の予想は、同じ調整後ベースで75.2%です。

ただし方針文には「程度」という語が付いているため、会社がこの85.0%を目安から外れたものと見ているかどうかまでは、公表資料からは読み取れません。読み手として持っておけるのは、目安と実績のあいだにこれだけの開きが出る期がある、という事実のほうです。

4. 「累進配当」を掲げる会社が、直近では方針を下回っていた

残った三井住友フィナンシャルグループが、この記事でいちばん意外だったところです。

方針文には「配当性向40%を維持し」と書かれています。2026年3月期の実績は38.0%でした。

ただし、配当が減ったわけではありません。1株当たり配当は前の期の122円から157円へ、35円増えています。増配です。

比率が下がったのは、分母のほうが速く伸びたからです。同じ期の親会社株主に帰属する当期純利益は1兆5,830億円(原データは1,582,973百万円。億円未満を四捨五入しました)で、前期比プラス34.4%。これに対して1株当たり配当の伸びは28.7%です。利益の伸びに配当が追いつかず、割り算の答えが40%を下回った、という順番になります。

会社は2027年3月期の予想として、配当性向40.0%を置いています。

出典:三井住友フィナンシャルグループ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)p.1「2.配当の状況」

私はこの会社の株主で、手元にあるのは約200株です。買った時点の私は「累進配当と書いてある会社なら、配当は下がりにくいだろう」という程度の理解でした。方針文の40%と実績の38.0%にずれがあると知ったのは、この記事のために決算短信を開いてからです。

誤解のないように書いておくと、私はこのずれを問題だと言いたいわけではありません。増配しながら配当性向が下がる期があると分かっていれば、それで十分です。配当性向が前の期より低かったときに「減配の前触れではないか」と早合点せずに済みますし、逆に比率だけを見て「40%を守っているから安心」と読むのも一面的だと分かります。配当性向は、配当と利益という2つの数字の関係でしかありません。

まとめ:言葉ではなく、方針文と実績の2つで見る

3社を並べて分かったのは、「累進配当」は銘柄のカテゴリー名ではなく、その会社が自分の方針文に置いた言葉だということでした。名乗っているのは3社のうち1社。名乗っていない2社のうち1社は、実際には長く減配していません。

高配当の銘柄を見るときに、私がこれから確認することを3つに絞ります。

  • 1. 方針文に何と書いてあるかを、原文で読む:「累進的配当方針」なのか、「安定的・持続的な増加」なのか、「配当性向○%を目安」だけなのか。要約された紹介ではなく、会社の公式サイトに載っている文をそのまま読む
  • 2. 減配の実績は、期間を区切って確認する:「一度も減配していない」と「○年○月期以降は減配していない」は別の話。配当推移の表は、右端の直近数期だけでなく左へ遡って見る
  • 3. 比率は、どの基準の数字かを確かめてから比べる:日本たばこ産業のように、同じ期でも調整後ベースと報告ベースで倍以上違うことがある。基準を混ぜた比較表は作らない

そのうえで、私は3社とも保有を続けています。方針の言葉が弱いから外す、強いから増やす、という読み方をしていないのは、ここまで見てきたとおり、言葉の強さと実際の配当の動きが一致していなかったからです。私が見るのは方針文と実績の2つで、順番はいつも方針文が先です。書いてあることを先に押さえておかないと、実績の数字が動いたときに、それが方針どおりなのか方針から外れたのかを判断できません。

この記事には、意識して載せなかった数字があります。株価も、配当利回りも、PER・PBRも、一度も出していません。日々動く数字で、公開した翌日にはもう別の値になっているからです。利回りをご自身で計算する方は、その日の株価を必ず確認してください。

あわせて、三井住友フィナンシャルグループについては2026年10月1日に1株を2株にする株式分割が予定されています(基準日は2026年9月30日)。この記事で挙げた157円は、その分割を反映する前の1株当たりの金額です。分割後の株価と組み合わせて計算すると、答えがずれます。

出典:三井住友フィナンシャルグループ「株式分割、米国預託証券(ADR)の原株との交換比率変更及び定款の一部変更に関するお知らせ」(2026年5月13日)

3社それぞれの中身は、個別の記事に分けてまとめています。

あわせて読みたい

【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の配当・配当性向・株主還元方針に関する情報は、執筆時点(2026年8月14日)に各社が公表している一次情報にもとづく整理です。配当予想および業績予想は将来の実現を保証するものではなく、今後修正される可能性があります。最終的な判断は、必ず各社の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。

【三菱UFJ(8306)】保有株主として確認しておきたい配当と資本の状況

こんにちは、配当日記です。

毎月の生活費は、配当金から出しています。会社員だったのは37歳まで。IT企業でシステムエンジニアをしていましたが、資産が3,000万円に届いたところで辞め、週3日ほどのアルバイトと配当を組み合わせる暮らしに切り替えました。それから3年、いまはそのアルバイトもありません。

配当で生きていると、入金の日付と金額が、そのまま生活の予定表になります。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG・8306)の2026年3月期の期末配当は1株51円で、効力発生日と支払開始日は2026年6月29日でした。年間では86円。期のはじめに74円と予想されていたものが、12円引き上げられての着地です。今期にあたる2027年3月期は96円が予想されています。保有している側としては、ありがたい流れが続いています。

ところが、その増配の根拠を確かめようと決算資料を開いたところで、手が止まりました。会社が自分の運営目標として使っているCET1比率(財務目標ベース)が、2026年3月末で9.2%。会社が置いているターゲットレンジは9.5〜10.5%です。下限を割っています。

銀行は資本が厚いから、配当も揺るがない。私はそう思い込んでいました。

配当と資本、この2つがどうつながっているのかを、同社が公表している資料だけで追いました。株価・配当利回り・PER・PBRには触れません(理由は最後に書きます)。

なお本記事は投資助言ではなく、特定銘柄の売買を勧めるものでもありません。

この記事の内容

1. 96円まで来た配当。ただし出発点は12円で、その前は14円だった

まず、会社が公表している1株当たり配当金をそのまま並べます。MUFGは2007年9月30日に1株を1,000株にする株式分割を実施していますが、それ以降は分割がありません。2008年3月期以降の数字は、さかのぼって調整しなくてもそのまま比較できます。

決算期 中間 期末 年間
2022年3月期 13.5円 14.5円 28円
2023年3月期 16円 16円 32円
2024年3月期 20.5円 20.5円 41円
2025年3月期 25円 39円 64円
2026年3月期 35円 51円 86円
2027年3月期(予想) 48円 48円 96円

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「配当情報」(2026年8月12日取得)

2022年3月期の28円が、2027年3月期の予想では96円。予想どおりに着地すれば、5期で約3.4倍です。

ここだけ見れば、増配を続ける会社の教科書のような並びに見えます。

ただ、この表は直近5期分でしかありません。同社の配当情報ページには、もっと前の数字も載っています。2009年3月期から順に、12円・12円・12円・12円・13円・16円・18円・18円・18円・19円・22円・25円・25円・28円。これで2022年3月期までつながります。

この範囲で前年を下回った年はありません。ただし、毎年増えていたわけではありません。同じ金額が続いた区間が3つあります。2009年3月期から2012年3月期までの12円、2015年3月期から2017年3月期までの18円、2020年3月期と2021年3月期の25円です。前年から増えなかったのは2010・2011・2012・2016・2017・2021年3月期の6回、増配は7回。毎期きちんと増えるかたちになったのは、2022年3月期からの直近5期です。

そして、この並びのさらにひとつ前。2008年3月期の年間配当は14円で、2009年3月期はそこから12円へ下がっています。減配です。

私はこの会社を「減配したことのない銀行」だと思っていました。配当推移の表を見るとき、いつも右端の直近数期しか目に入っていなかったからです。左へ遡ったのは、この記事を書くために配当情報ページを開いたときが初めてでした。

正確に言うなら、MUFGは「一度も減配していない会社」ではなく、「2009年3月期以降は減配していない会社」です。文字にすれば数文字の違いですが、意味は違います。前者は会社の性質の話で、後者は期間を区切った実績の話です。

2. MUFGは「累進配当」と言っていない

では、配当額は何をもとに決まっているのか。会社が公表している株主還元方針は、4つのかたまりでできています。

基本方針として置かれているのは、資本の健全性と成長のための投資との最適なバランスを検討したうえで、配当を基本に株主還元の充実に努める、という考え方です。そのうえで配当については、配当性向を40%程度とし、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加を基本方針とすると書かれています。

残りの2つは自己株式の扱いです。自己株式取得は、資本効率の向上に資する株主還元策として、業績・資本の状況、成長投資の機会、株価を含めた市場環境を考慮して機動的に実施する。自己株式消却は、保有する自己株式の総数の上限を発行済株式総数の5%程度を目安とし、それを超える数は原則として消却する。この2つ目は、あとの第5章で効いてきます。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主還元方針」(2026年8月12日取得)

ここで確認しておきたいのは、使われていない言葉のほうです。

累進配当。減配しない。この2つは、MUFGの方針文には出てきません。あるのは「安定的・持続的な増加」という表現です。

同じ日本の大手銀行でも、三井住友フィナンシャルグループは公式の方針文に「累進的配当方針」という言葉を置いていて、2026年5月の投資家説明会では、その位置づけを「減配しない」から「毎期増配」へ進めると説明しています。同社については【三井住友FG(8316)】6期連続増配、でも「累進配当」で合ってる?で整理しました。方針に配当性向40%維持と書きながら2026年3月期の実績は38.0%だった、という話です。

方向は近くても、会社が自分に課している縛りの強さは同じではありません。高配当株をまとめて紹介するときに「どれも累進配当」と書いてしまうと、この差が消えます。MUFGは増配を約束しているのではなく、利益の40%程度を配ることと、その利益を伸ばしていくことを掲げている、という建て付けです。

配当性向という比率が軸にある以上、分母である利益が落ちれば配当額も落ちうる。この構造自体は、配当性向75%を目安に置く日本たばこ産業と同じです。違うのは、MUFGの方針文には「増加」という語が入っている点で、その分だけ言葉としては強い。ただし、前章で見たとおり、実際には横ばいの年が何度もありました。

3. 配当性向40%は、数字の上でも守られている

方針の言葉を見たあとは、実績の数字です。

会社は決算ハイライトで、配当性向・自己株式取得額・総還元性向の推移をまとめて出しています。ただし資料の表記は「2025年度」のような年度表記なので、決算期に直して並べ替えました。同社の2025年度は2026年3月期にあたります。

決算期 連結配当性向 自己株式取得額 総還元性向
2021年3月期 41.3% 41.3%
2022年3月期 31.7% 1,500億円 44.8%
2023年3月期 35.3% 4,500億円 75.2%
2024年3月期 32.9% 4,000億円 59.6%
2025年3月期 40.0% 4,000億円 61.3%
2026年3月期 40.3% 5,000億円 60.8%
2027年3月期(予想) 40.1% 1,000億円(上期分)

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)p.4

方針にある「40%程度」と実績が重なっているのは、2025年3月期の40.0%と2026年3月期の40.3%、そして今期予想の40.1%です。実績としては2期、予想を入れて3期分が40%前後で揃っています。

逆に言えば、2022年3月期から2024年3月期は31.7%・35.3%・32.9%で、40%には届いていません。この3期は自己株式取得のほうが厚く、総還元性向で見ると44.8%・75.2%・59.6%と大きく振れています。配当性向だけを見て「この会社は還元が薄い年があった」と読むと、判断を誤ります。配当と自己株買いのどちらに寄せるかは年によって違い、その合計が総還元性向の列です。

DOEは方針に書かれていない

もうひとつ、決算短信に載っている指標を確認しておきます。

決算期 純資産配当率(連結・DOE) 配当金総額
2025年3月期 3.7% 741,992百万円
2026年3月期 4.6% 976,032百万円

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)p.1「2.配当の状況」

配当金の総額は、1年で約7,420億円から約9,760億円へ増えています(百万円単位の原データを億円に四捨五入しました)。

ここで注意しておきたいのは、この純資産配当率が目標ではなく結果だという点です。第2章で見たとおり、MUFGの株主還元方針にDOEの目標値は書かれていません。配当性向40%程度という基準で配当額を決めた結果として、あとから出てくる数字がこれです。「DOE4.6%の会社」という覚え方をすると、会社が約束していないものを約束と読み違えます。

4. 増配の年に、資本の目標は割れている

配当が続くかどうかを見るとき、私は財務の余力もあわせて確認します。ただ、銀行はここで一度つまずきました。

短信の「自己資本比率5.2%」は、健全性の指標ではない

決算短信の1ページ目には「自己資本比率」という欄があり、MUFGの2026年3月期の数字は5.2%です。事業会社の感覚でこれを見ると、薄すぎるように感じます。

ところが短信の注記を読むと、この自己資本比率は「(期末純資産の部合計-期末新株予約権-期末非支配株主持分)を期末資産の部合計で除して算出」と定義されています。つまり、純資産を総資産で割っただけの数字です。預金という他人のお金を大量に預かる銀行は総資産が桁違いに大きくなるので、この割り算では必ず小さく出ます。この数字を事業会社の自己資本比率と並べて比べてはいけません。

使うのはCET1比率。ただし2種類ある

銀行の健全性を見るときに使われるのは、CET1比率(普通株式等Tier1比率)のほうです。

基準 2024年3月末 2025年3月末 2026年3月末
現行規制基準(普通株式等Tier1比率) 14.18% 12.47%
財務目標ベース(バーゼルⅢ最終化・完全実施ベース、その他有価証券評価差額金除き) 10.1% 10.8% 9.2%

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)/「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)p.5

現行規制基準では、2026年3月末が12.47%。前年度末から1.71ポイント下がっています。同じ時点の総自己資本比率は16.85%(前年度末比1.98ポイント低下)、Tier1比率は14.95%です。分母にあたるリスク・アセットは120兆2,817億円で、1年で13兆3,512億円増えました。

問題は、下の行です。

財務目標ベースの9.2%は、会社が自分で定めたターゲットレンジ9.5〜10.5%を下回っています。2024年3月末は10.1%、2025年3月末は10.8%でしたから、1年で1.6ポイント落ちたことになります。会社はこれを主にShriram Finance社への出資の影響(マイナス0.65%)と説明し、出資による影響で一時的にターゲットレンジを下回るものの、2026年度内にレンジ内へ回帰する想定だとしています。

私が引っかかったのはここでした。増配と自己株式取得を進めている会社が、同じ年に、自分で置いた資本の目標を下回っている。この2つは同じ資料の中に並んで書かれています。片方だけを読んで「増配が続いているから安心」と結論を出していたら、もう片方は見えないままでした。

誤解のないように補足しておくと、9.2%という数字は規制上の必要水準を割ったという話ではありません。現行の規制基準で見れば12.47%です。あくまで、将来の規制を先取りして会社が自分に課している運営目標のレンジから外れている、という意味です。

ここで押さえておきたい3つのこと

  • 短信の「自己資本比率5.2%」とCET1比率12.47%は、まったく別の計算式の数字。事業会社の自己資本比率と並べない
  • CET1比率にも「現行規制基準」と「財務目標ベース」の2種類がある。12.47%と9.2%は同じ会社の同じ時点の数字で、基準が違うだけ。他社と比べるなら必ず同じ基準どうしで並べる
  • ターゲットレンジは会社ごとに違う。財務目標ベースで比べると、2026年3月末は三井住友フィナンシャルグループが10.3%、MUFGが9.2%。ただし目標レンジも前者が10.0〜11.0%、後者が9.5〜10.5%と別々に置かれているので、数字の大小だけで優劣を決められる話ではない

もうひとつ、時点の注意があります。CET1比率は四半期の決算資料には出てきません。2026年6月末(2027年3月期第1四半期)時点の数値は、私が確認した範囲では開示されていませんでした。いま使える最新の数字は2026年3月末時点のものです。どこかでCET1比率を見かけたときは、それがいつ時点のものかを必ず一緒に確認してください。

5. 自己株式取得は5,000億円から1,000億円へ。優待は2017年に廃止されている

配当以外の還元も見ておきます。まず自己株式の取得です。

取得期間 取得した株式の総数 取得価額の総額
2026年5月18日〜2026年6月25日 31,967,100株 99,999,771,608円(約1,000億円)
2025年11月17日〜2026年2月27日 94,456,300株 249,999,908,452円(約2,500億円)
2025年5月16日〜2025年7月31日 126,363,300株 249,999,975,140円(約2,500億円)
2024年11月15日〜2025年3月26日 158,752,500株 299,999,995,801円(約3,000億円)
2024年5月16日〜2024年6月21日 62,666,100株 99,999,986,737円(約1,000億円)

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主還元方針」内「自己株式の取得の状況」(2026年8月12日取得)

この表を決算期でまとめ直すと、第3章の一覧と数字が合います。2025年3月期は1,000億円と3,000億円で合計4,000億円。2026年3月期は2,500億円が2回で合計5,000億円。どちらの期も、上期に一度実施して、下期にもう一度追加しています。

今期の2027年3月期は、いまのところ2026年5月から6月にかけての約1,000億円だけです。会社は決算ハイライトで、上期分は1,000億円、下期分は外部環境や利益の進捗などを踏まえて別途検討する、と説明しています。

つまり、前期の5,000億円と今期の1,000億円を並べて「還元が5分の1に減った」と読むのは、まだ早い。決まっているのは上期分だけで、下期の判断はこれからです。

第2章で触れた自己株式消却の方針も、ここに関わります。保有する自己株式の総数の上限を発行済株式総数の5%程度に置き、それを超える分は原則として消却する。買った株を持ち続けるのではなく、一定量を超えたら消す、という運用が方針として明文化されています。

この点は、同じ高配当株でも会社によってまったく違います。日本たばこ産業の自己株式取得は2019年2月から3月にかけての約500億円が最後で、それ以降の実績がありません(【JT(2914)】配当272円へ増配。JTって減配したこと、ないんでしたっけ?で整理しました。JTの還元は事実上、配当がすべてという話です)。還元を「配当+自己株買い」の合計で見積もる癖のある人は、銘柄ごとに自己株買いの有無を先に確認したほうが、計算が合います。

優待を廃止した理由が、そのまま配当方針とつながっている

株主優待については、MUFGにはもう制度がありません。

かつては、毎年9月30日時点で100株以上を保有する株主に「株主特典コース」(オリジナルグッズのプレゼントまたは寄付)を、500株以上を保有する株主に「ご優待サービス」(グループ各社の商品・サービスの優遇)を贈っていました。これが、2016年9月30日時点の株主名簿に記載された株主への提供をもって終わり、2017年12月末で制度そのものが廃止されています。

会社が挙げている理由は、株主への公平な利益還元のあり方という観点から慎重に検討を重ねた結果、利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加をめざすという基本方針にもとづいて運営していくことが適切だと判断した、というものです。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「株主優待制度廃止について」(2026年8月12日取得)

廃止の理由が、第2章で読んだ配当方針の文言とそのまま重なっているのが分かります。優待は保有株数の区分ごとに価値が変わるので、1株あたりで見ると保有数の少ない株主に厚く配分されます。それを公平の観点から整理して、配当に一本化した、という説明です。

一方で、三井住友フィナンシャルグループは2026年5月13日に株主優待制度の新設を発表し、初回の基準日は2026年9月30日です。同じ業種の2社が、優待について正反対の判断をしていることになります。

どちらが優れているという話ではありません。優待を持たないMUFGは、株主に渡すものが配当と自己株買いだけになるので、還元の中身を数字で追いやすい。優待のあるSMFGは、金額に換算しにくい特典が加わる代わりに、条件の確認と手続きが要る。私は両方を保有しているので、それぞれ別の形で管理することになります。

6. 「予想」ではなく「目標」——今期の2兆7,000億円

最後に業績です。配当性向40%程度が方針である以上、分母の利益がどうなるかは、そのまま次の配当額の話になります。

項目 2026年3月期(実績) 2027年3月期(目標)
業務純益 23,772億円 29,000億円
与信関係費用総額 ▲3,558億円 ▲3,500億円
経常利益 34,101億円 39,500億円
親会社株主純利益 24,272億円 27,000億円
ROE(東証定義) 11.3% 12%程度(中期経営計画の最終年度目標)

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2025年度 決算ハイライト」(2026年5月15日)p.4

ここで、表の見出しに注目してください。右の列は「予想」ではなく「目標」と書いています。

MUFGは通期の業績予想を出していません。決算短信には、同グループが銀行業・信託銀行業・証券業・クレジットカード・貸金業などの金融サービス業を展開していて、これらの業務には経済情勢や相場環境に起因するさまざまな不確実性があるため、業績予想に代えて親会社株主に帰属する当期純利益の目標値を記載する、という趣旨の説明が置かれています。

日本たばこ産業も三井住友フィナンシャルグループも、通期については「予想」を出しています。3社を1つの表に並べるときに、この欄を全部「予想」でそろえてしまうと、MUFGだけ性質の違う数字が混ざります。会社が自分で「予想ではない」と断っているものを、予想として扱わないほうがいい、というだけの話ですが、比較表を作る人ほど踏みやすい段差だと思います。

なお、配当のほうは「予想」です。会社は決算ハイライトで、2026年3月期(同社表記で2025年度)は年間86円(予想比プラス12円)に増配し、2027年3月期(同2026年度)は96円(前年度比プラス10円)を予想、あわせて上期としては1,000億円を上限とする自己株式取得を決議した、と説明しています。業績は目標、配当は予想。同じ資料の中で使い分けられています。

今期の出だしの数字も出ています。2027年3月期第1四半期は、経常収益3,907,543百万円(前年同四半期比プラス20.1%)、経常利益1,117,934百万円(プラス57.8%)、親会社株主に帰属する四半期純利益809,427百万円(プラス48.2%)。1株当たり四半期純利益は71.77円、総資産は433,913,478百万円です。

出典:三菱UFJフィナンシャル・グループ「2027年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年8月6日)p.2

四半期純利益の809,427百万円は約8,094億円ですから、通期目標の27,000億円に対して単純に割ると約30%です。これは私が電卓を叩いただけの数字で、会社が進捗率として公表しているものではありません。同社のニュースリリースを2026年8月12日に確認した範囲では、この第1四半期決算のあとに配当予想の修正や新たな自己株式取得の発表は出ていませんでした。

まとめ:96円の増配と一緒に、私が見ている4つの数字

調べ直して分かったのは、MUFGの配当は「増やすと約束された配当」ではなく、「利益の40%程度を配り、その利益を伸ばしていくと掲げた配当」だということでした。そして今期は、増配と資本の目標割れが同じ年に起きています。

私がこの銘柄で追うことにした項目を4つに絞ります。

  • 1. 財務目標ベースのCET1比率が9.5%以上に戻るか:2026年3月末は9.2%で、会社のターゲットレンジ9.5〜10.5%を下回っている。会社は2026年度内にレンジへ回帰する想定としている。ただし四半期資料には出てこないので、次にどの開示で更新されるかは追いかけて確認するしかない
  • 2. 配当性向が40%程度に収まるか:実績は2025年3月期40.0%、2026年3月期40.3%。今期予想は40.1%。方針そのものがこの比率なので、大きく外れた年は理由を確認する
  • 3. 下期の自己株式取得が決まるか:今期は上期分の約1,000億円だけが実行済みで、下期分は別途検討とされている。2025年3月期は4,000億円、2026年3月期は5,000億円だった
  • 4. 親会社株主純利益27,000億円という「目標」の進捗:第1四半期は約8,094億円。予想ではなく目標である点を忘れない

この4つのうち、私が最初に見るのは1番です。

理由は、株主還元方針に「自己株式取得は業績・資本の状況、成長投資の機会、株価を含めた市場環境を考慮して機動的に実施する」と書かれているからです。資本がターゲットレンジの下にある状態は、その判断材料のひとつになるはずだと私は読んでいます。会社がそう説明しているわけではないので、ここは私の推測です。一方で配当は配当性向40%程度が軸なので、資本のレンジ割れがそのまま配当額に直結するとは限りません。資本の状態が先に効いてくるとすれば、配当より自己株買いのほうだろう、というのが私の見立てです。

そのうえで、私自身がどうするかを書いておきます。

私はMUFGを保有していて、いま手放す理由は見つかっていません。配当の決まり方が「利益の40%程度」という一本のルールで説明でき、2026年3月期の実績40.3%も今期予想の40.1%もそのルールから外れていないからです。CET1のレンジ割れは気になりますが、規制上の必要水準を割った話ではなく、会社が自分に課した目標の話です。回帰の想定も示されています。だから私は、売る材料ではなく、次の開示で確認する項目として扱うことにしました。

ただし、この判断は人によって答えが変わります。

減配のない設計を最優先するなら、方針の文言として「累進的配当」や「毎期増配」を掲げている会社を選ぶ、という考え方があります。配当性向で銘柄を横に並べたい人は、MUFGとJTを同じ表に入れる前に基準の確認が要ります。JTはIRサイトと決算短信で配当性向の数字が2種類あり、同じ年で74.3%と192.2%のように食い違うからです。総還元性向で見積もる人は、MUFGの今期は上期1,000億円しか確定していない点を織り込む必要があります。

最後に、この記事にあえて入れなかったものを書いておきます。株価・配当利回り・PER・PBRには一切触れていません。日々動く数字なので、公開した翌日にはもう別の値になっているからです。利回りを計算する方は、必ずご自身でその日の株価を確認してください。そのとき分子に置く配当が96円(2027年3月期の予想)なのか86円(2026年3月期の実績)なのかで、答えは1割以上変わります。

次の入金は中間配当の予想48円で、基準日は9月30日です。発表日程は同社のIR情報で確認してください。それまでは、決算資料のCET1の行を眺めながら待つ時間になります。

【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の配当・業績・株主還元・自己資本に関する情報は、執筆時点(2026年8月13日)に三菱UFJフィナンシャル・グループが公表している一次情報にもとづく整理です。業績目標および配当予想は将来の実現を保証するものではなく、今後修正される可能性があります。最終的な判断は、必ず同社の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。

【JT(2914)】配当272円へ増配。JTって減配したこと、ないんでしたっけ?

こんにちは、配当日記です。

いま、私の生活費は全額が配当金から出ています。37歳でIT企業のシステムエンジニアを退職し、3,000万円の資産と週3日ほどのアルバイトを組み合わせるサイドFIREを始めてから3年。そのアルバイトのほうも、いまは卒業しました。

配当だけで暮らしていると、増配の発表は「いくら増えるか」より先に「何をもとに決まったのか」を確かめる作業から始まります。

2026年7月30日、日本たばこ産業(JT・2914)が2026年12月期の業績予想を上方修正しました。あわせて1株当たり年間配当の予想も272円へ引き上げています。保有している身としては、ありがたい発表でした。

ただ、この会社の配当について、私はひとつ思い違いをしていました。たばこの会社は景気に左右されにくいから、配当も減らない。どこかで聞いたその話をそのまま信じて持っていたのです。IRの資料を最初から読み直したら、そう単純な作りではありませんでした。

この記事では、JTの配当が何をもとに決まっているのかを、同社が公表している資料だけで整理します。株価・配当利回り・PER・PBRには触れません(理由は最後に書きます)。

なお本記事は投資助言ではなく、特定銘柄の売買を勧めるものでもありません。

この記事の内容

1. 配当は10年で2.1倍。ただし一直線ではない

まず、会社が公表している1株当たり配当金の推移をそのまま並べます。この表の期間中、JTは株式分割を行っていません。だから過去の数字をさかのぼって調整する必要がなく、表の数字がそのまま比較できます。

決算期 中間 期末 年間 連結配当性向
2016年12月期 64円 66円 130円 55.2%
2017年12月期 70円 70円 140円 63.9%
2018年12月期 75円 75円 150円 69.7%
2019年12月期 77円 77円 154円 78.6%
2020年12月期 77円 77円 154円 88.1%
2021年12月期 65円 75円 140円 73.4%
2022年12月期 75円 113円 188円 75.4%
2023年12月期 94円 100円 194円 71.4%
2024年12月期 97円 97円 194円 74.3%
2025年12月期 104円 130円 234円 85.0%
2026年12月期(予想) 136円(決議済) 136円(予想) 272円 75.2%

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」内「1株当たり配当金・配当性向の推移」(2026年8月12日取得)/2026年12月期 第2四半期決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年7月30日)p.1

配当性向の列は同社のIRサイトに載っている数値です。2024年12月期と2025年12月期については、調整後の当期利益をもとに算出したものだと会社が注記しています。この「調整後」がこの記事の山場になるので、第4章でまとめて扱います。

2016年12月期の130円が、2026年12月期の予想では272円。予想どおりに着地すれば10年で2.1倍です。直近5年で見ても、2021年12月期の140円から272円へ約1.9倍になります。

数字だけ追えば、きれいな右肩上がりに見えます。

ところが表を縦に読むと、そうでもありません。2023年12月期と2024年12月期は194円で並んでいて、増えていない年があります。そして2020年12月期から2021年12月期にかけては、154円から140円へ下がっています

2. JTは「累進配当」を名乗っていない

配当がどう決まるのか。会社が掲げている株主還元方針を読むと、判断の軸がはっきり書かれています。

ひとつは、強い財務基盤を保ちながら中長期の利益成長で株主還元の水準を上げていくという考え方。もうひとつが数字の部分で、資本市場で競争力のある水準として配当性向75%を目安とし、その前後5%程度の幅の中で判断するという内容です。自己株式の取得については、その年の財務状況と中期的な資金需要を踏まえて実施するかどうかを検討する、という書き方になっています。

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」(2026年8月12日取得)

ここで注目したいのは、書かれていることより書かれていないことのほうです。

累進配当。減配しない。安定配当。この3つの言葉が、JTの方針文にはひとつも出てきません。あるのは配当性向75%という比率だけです。

配当性向は「利益のうち何%を配当に回すか」を示す比率ですから、分母である利益が減れば、同じ比率でも配当額は減ります。JTの配当は、利益に連動して上下する設計になっているということです。増配を約束しているのではなく、利益の75%前後を配ると約束している。似ているようで、意味はかなり違います。

この違いは、同じ「高配当株」の枠でくくられがちな銀行株と比べるとよく分かります。三井住友フィナンシャルグループは公式の方針文に累進的配当方針と配当性向40%維持を並べて書いていて、2026年5月の投資家説明会では累進的配当方針を「減配しない」から「毎期増配」へ進めると説明しています。同社については【三井住友FG(8316)】6期連続増配、でも「累進配当」で合ってる?で整理しました。方針に配当性向40%維持と書きながら2026年3月期の実績は38.0%だった、という話です。

言葉で増配を約束する会社と、比率だけを約束する会社。どちらが優れているという話ではなく、持っている株主が身構えるべき場面が違うということです。

3. 2021年、実際に14円減っている

方針が利益連動型なら、利益が落ちた年に何が起きるのか。答えは表の中にあります。

2020年12月期の年間配当154円が、2021年12月期は140円。1株あたり14円、率にして約9%の減配です。中間配当は77円から65円へ、期末は77円から75円へ、どちらも下がりました。

このとき配当性向は88.1%から73.4%へ動いています。前年の88.1%は目安の75%を大きく超えていた状態で、そこから目安の範囲内に戻した格好です。

つまりこの減配は、配当性向という比率の側から見れば説明のつく動きです。方針そのものが利益連動型である以上、利益が落ちた年に配当が下がるのは、設計どおりに起きる出来事だと読めます。

私はここを読んだとき、正直なところ少し肝が冷えました。配当金だけで生活していると、保有銘柄の年間配当が9%減ることの意味が、現役で働いていた頃とはまるで違って感じられます。給料があれば「今年は少なかったな」で済む話が、いまは家計の計算をやり直す話になります。

だから、減配のない銘柄でポートフォリオを固めたいと考えている人にとっては、JTは方針の言葉の上でその条件から外れます。「たばこ株は減らない」という印象で持つのと、「利益が落ちれば配当も落ちる会社だ」と分かって持つのとでは、下がった日の受け止め方が変わります。

念のため補足すると、2022年12月期以降は188円・194円・194円・234円と回復しています。減配したから駄目な会社だ、という単純な話ではありません。ただ、この1行を落として「JTは安定配当」と紹介すると、それは事実と違う紹介になります。

4. 配当性向が2つある——私はここでつまずいた

ここからが、この記事でいちばん伝えたい部分です。

第1章の表で、2024年12月期の配当性向は74.3%と書きました。目安の75%にほぼ一致していて、方針どおりに見えます。ところが同じ年の決算短信を開くと、配当性向の欄には192.2%と書いてあります。

最初に見たとき、私は自分がPDFを取り違えたのだと思いました。

取り違えではありませんでした。JTは配当額を決めるときに「配当算定の基礎となる調整後の当期利益」を使っていて、決算短信の配当性向欄に載る数字とは計算のもとが違うのです。

決算期 IRサイト掲載(調整後ベース) 決算短信掲載(報告ベース) 差が出る理由
2024年12月期 74.3% 192.2% カナダ訴訟の損失引当金3,756億円を一括計上した影響を除いているかどうか
2025年12月期 85.0% 81.4% カナダ訴訟の和解にともなう負債の再測定影響と、スーダン子会社の清算にともなうのれん除却損を除外(調整後の継続事業からの当期利益4,886億円が算定の基礎)
2026年12月期(予想) 75.2% カナダの和解金支払い等の影響を調整した後の当期利益6,420億円が算定の基礎

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」の注記/2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年2月12日)p.1「2.配当の状況」/2026年12月期 第2四半期決算短信(2026年7月30日)p.1注記

2024年12月期の192.2%という数字だけを見れば、「利益の2倍近くを配っている、無理をしている会社」に見えます。2025年12月期は85.0%と81.4%で、今度は調整後のほうが高く出ます。どちらの数字も間違いではありません。もとにしている利益が違うだけです。

実務上どちらを見るべきかというと、JT自身が配当額の決定に使っているのは調整後ベースです。2026年12月期の272円という予想も、和解金支払い等の影響を調整した後の当期利益6,420億円をもとに、配当性向75.2%を用いて算定したものだと決算短信に注記されています。

ここから引き出せる実用的なルールはひとつです。配当性向を他社と横に並べて比べたい人は、IRサイトの数字と決算短信の数字を混ぜないでください。同じ会社の同じ年でも、74.3%と192.2%という2つの答えが出てきます。比較表を作るときは、全社を同じ側の基準で揃える必要があります。

ちなみに私は、決算短信の1ページ目だけ見て「配当性向」の欄をメモする習慣がありました。JTに関しては、その習慣のままだと数字を読み違えます。

5. 「30円増配」は、何からの30円なのか

2026年7月30日の発表に戻ります。

会社は決算説明会の資料で、通期業績予想の上方修正を受けて株主還元方針に沿い、30円増配の272円にすると説明しています。中間136円・期末136円という内訳です。

この「30円増配」を、前期の実績から30円増えたと読むと、ずれます。

公表日 中間 期末 年間 配当性向(調整後) 算定基礎の調整後当期利益
2026年2月12日(当初予想) 121円 121円 242円 75.4% 5,710億円
2026年7月30日(修正後) 136円 136円 272円 75.2% 6,420億円

出典:2025年12月期 決算短信(2026年2月12日)p.1「2.配当の状況」/2026年12月期 第2四半期決算短信(2026年7月30日)p.1/2026年度 第2四半期 決算説明会資料(CFOプレゼンテーション、2026年7月30日)p.15

30円というのは、今年2月に出した当初予想242円からの増分です。前期の実績234円と比べるなら、増えるのは38円になります。増配率で銘柄を比べたい人は、当初予想からの増分なのか前年実績からの増分なのかを揃えないと、同じ会社が違う姿に見えます。

保有株主として日付で押さえておくと、中間配当136円は決議済みで、支払開始予定日は2026年9月1日です。期末配当の基準日は2026年12月31日になります。

上方修正の中身

配当を引き上げられた理由は、業績のほうにあります。2026年12月期の中間期実績と、同じ日に引き上げられた通期予想を並べます。

項目 2026年12月期 中間期(実績) 2026年12月期 通期(修正後予想)
売上収益 1,986,070百万円(前年中間期比+17.7%) 3,885,000百万円(前期比+12.0%)
営業利益 644,940百万円(+29.0%) 1,008,000百万円(+16.3%)
親会社の所有者に帰属する利益 431,829百万円(+35.0%) 644,000百万円(+26.2%)
基本的1株当たり利益 243.24円 362.74円
為替一定ベースの調整後営業利益 988,000百万円(+11.6%)

出典:2026年12月期 第2四半期(中間期)決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年7月30日)p.1

会社の説明では、上期はたばこ事業が業績を引っ張り、当初の想定を上回る利益成長になったとされています。中身としては、価格改定の効果とシェアの伸びが続いていること、加熱式たばこのPloomが売上の伸びに寄与したことが挙げられています。中間期末の親会社所有者帰属持分比率は50.7%です。

もうひとつ、数字の読み方で気をつけたい箇所があります。ひとつ前の期、2025年12月期の実績を見ると、営業利益が前期比+175.9%、当期利益が+184.6%という数字が並びます。ここだけ切り取ると「利益が3倍近くに増えた会社」に見えますが、これは前の期(2024年12月期)にカナダ訴訟の損失引当金3,756億円を一括で計上したことの反動です。落ち込んだ年を基準にすれば、伸び率は大きく出ます。

中長期については、為替一定ベースの調整後営業利益の成長率で年平均1桁台の中位から高位の成長を全社の利益目標に置いていて、経営計画2026の期間(2026年12月期から2028年12月期)は年平均で1桁台の高位の成長を想定している、と決算短信に書かれています。

6. 配当以外の還元は、いま止まっている

株主還元は配当だけではありません。自己株式の取得と、株主優待。この2つがJTでどうなっているかを確認します。

まず自己株式の取得です。

取得期間 取得株式数 取得金額
2019年2月〜3月 17,787,600株 499億9,990万円
2015年2月〜3月 26,896,200株 999億9,969万円
2013年2月 86,805,500株 2,499億9,984万円
2011年2月〜3月 13,437,000株 199億9,974万円

出典:日本たばこ産業「株主還元方針・配当」内「自己株式の取得状況」(2026年8月12日取得)

直近は2019年で止まっています。2026年8月12日に確認した時点で、それ以降の取得実績はありません。方針にも「実施の是非を検討する」と書かれているだけで、定期的に買うとは書かれていません。

ここは銀行株と対照的な部分です。三井住友フィナンシャルグループは2027年3月期分として1,800億円の枠で自己株式を取得し、2026年8月3日に約1,800億円で完了したと公表しています。2023年3月期以降は5期続けて1,000億円超(直近では2,500億円・2,500億円、今期は1,800億円の枠)を買い付けている会社と、7年間実績のない会社。還元の総額を「配当+自己株買い」で見積もる癖のある人は、JTでは配当がほぼすべてだと考えておいたほうが計算が合います。

株主優待については、答えが短く済みます。2023年発送分をもって廃止されました。今後も株主への利益還元は経営課題と位置づけて企業価値の向上に取り組む、という説明が同社のよくあるご質問に載っています(出典:日本たばこ産業「株式に関するよくあるご質問」2026年8月12日取得)。いまは制度そのものがありません。

DOEは「目標」ではなく「結果」

もうひとつ、数字の性格を取り違えやすい指標があります。

JTはIFRSを採用しているので、決算短信では純資産配当率ではなく親会社所有者帰属持分配当率(連結)という名前で開示されています。

決算期 親会社所有者帰属持分配当率(連結) 配当金総額
2024年12月期 9.1% 344,461百万円
2025年12月期 10.6% 415,537百万円

出典:2025年12月期 決算短信〔IFRS〕(連結)(2026年2月12日)p.1「2.配当の状況」

JTは「DOE何%を目標とする」とは公表していません。上の数字は、配当性向75%目安で配当額を決めた結果として、あとから出てきた実績値です。目標値だと勘違いしないよう注意してください。

まとめ:保有株主として私が見ている4つの数字

調べ直して分かったのは、JTの配当は「増やすと約束された配当」ではなく「利益の75%前後を配ると約束された配当」だということでした。同じ増配でも、根っこにある約束の形が違います。

私がこの銘柄で確認するようにした項目を4つに絞ります。

  • 1. 配当性向が75%±5%の範囲にあるか:方針そのものがこの比率なので、範囲から外れた年は理由を確認する。2020年12月期の88.1%は、翌年の減配につながった
  • 2. その配当性向は調整後ベースか、報告ベースか:2024年12月期は74.3%と192.2%の2つが存在する。IRサイトと決算短信で数字が違う。配当額の決定に使われているのは調整後のほう
  • 3. 増配額が何からの増分か:2026年12月期の「30円増配」は当初予想242円からの増分。前期実績234円からは38円。基準を揃えないと他社と比べられない
  • 4. 自己株式取得と優待は計算に入れない:自己株買いは2019年を最後に実績なし、優待は2023年発送分で廃止。JTの還元は事実上、配当がすべて

そのうえで、私自身がどうするかを書いておきます。

私はJTを保有していて、いまのところ手放すつもりはありません。理由は単純で、利益に連動して配当が動く会社だと理解したうえで持つなら、この設計は納得できると考えたからです。利益が伸びれば配当も伸び、落ちれば落ちる。2021年に9%減ったのも、2026年に増配されたのも、同じ一本のルールから出ています。私が誤っていたのは会社の側ではなく、「たばこ株は減らない」と思い込んでいた自分の前提のほうでした。

ただし、この判断は人によって答えが変わります。生活費のうち特定の1銘柄への依存度が高い人ほど、利益連動型の配当は扱いにくくなります。減配のない設計を優先するなら、方針の文言に累進配当や毎期増配と書いてある会社を選ぶという考え方もあります。

もうひとつ。増配は受け取る金額が増えるだけでなく、翌年の税金や社会保険料にも効いてきます。会社員なら気にしなくていい部分が、配当だけで暮らしていると直撃します。この論点は配当控除は使うべきか?国民健康保険と会社の健保で答えが変わる話で整理しました。同じ配当額でも、国民健康保険の人と会社の健康保険の人とで有利な申告方法が逆になる、という話です。

最後に、この記事にあえて入れなかったものを書いておきます。株価・配当利回り・PER・PBRには一切触れていません。日々動く数字なので、公開した翌日にはもう別の値になっているからです。利回りを計算する方は、必ずご自身でその日の株価を確認してください。そのとき分子に置く配当が272円(2026年12月期の予想)なのか234円(2025年12月期の実績)なのかで、答えが1割以上変わります。

次の判断材料が出るのは2026年10月29日です。同社はこの日に2026年12月期第3四半期の決算を公表すると告知しています。それまでは、9月1日から支払われる中間配当を待つだけの時間になります。

【免責事項】本記事は投資助言ではなく、特定の銘柄の売買を推奨するものでもありません。記載の配当・業績・株主還元に関する情報は、執筆時点(2026年8月13日)に日本たばこ産業が公表している一次情報にもとづく整理です。業績予想および配当予想は将来の実現を保証するものではなく、今後修正される可能性があります。最終的な判断は、必ず同社の最新の開示資料をご自身で確認のうえ、自己責任でお願いします。